本コラムは、M&Aキャリア25年超の当社のシニアマネージャーが執筆しております。この情報が関与先様へのアドバイスの一助となれば幸いです。
前回のつづきをお送りいたします。
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■≪M&A道2丁目≫中小企業M&Aにおける5W1Hとは?―⑭⑥『How(どのように)?』
買収を検討する企業において、『How(どのように)?』とはどのようなものでしょうか。それはM&Aスキームの検討を指します。
すなわち、事業戦略上シナジー効果が有効に働くように事業展開を図るために買収方法の検討とそのためのグループ組織体制の整備です。
単純子会社化がオーソドックスな買収方法ですが、事業の多角化やM&Aを積極的に取り入れる方法としては、ホールディングカンパニーに組織を整備しておくこともあります。
もし、今後もM&Aを積極的に取り入れた形で事業展開していくことを検討する場合にはグループ組織体制の設計し、事前に体制整備しておくことは必要なことになります。
売手側の目線で記載しました前述の「4. 売手企業オーナー経営者にとっての『5W1H』とは?」の
⑥『How(どのように)?』では、主に株式譲渡と事業譲渡について取り上げましたが、ここでは、買手企業の視点で組織構造のデザインについて触れておきます。
一般的に、組織設計という場合、その代表的なものとして、第一に職能制組織・機能別組織、第二に事業部制組織、第三にマトリクス組織の3つの組織形態が挙げられます。
職能制組織・機能別組織とは、組織が生産や販売という機能別に分かれている場合の組織形態であり、効率性を重視した組織形態とされています。
ただし、責任の所在が曖昧になってしまったり、部門間の利益対立を招いたり、運営の仕方を誤ると全体最適化が難しくなる場合があります。
事業部制組織では、製品別に組織が分かれ、それぞれの中に生産と販売の両方が含まれているように分かれている場合の組織形態であり、現場の事業部長に権限と責任を集中することで柔軟な運営を重視した組織形態とされています。
マトリクス組織とは、事業部を超えた販売の連携や技術開発の共同化など、販売や研究開発まで全面的に横軸が入った組織形態で、事業軸と機能軸の両方のバランスを志向した組織形態であり、市場適応と技術蓄積をバランスさせようとする組織形態ですが、組織内調整に時間や負荷がかかりやすいこともあります(注1)。
こうした3つの組織形態をM&A実行後の組織設計で考えていく場合、買収直後の第一段階における組織形態は、そのままの状態で買収対象会社を子会社として受け入れると事業部制組織に近い形態としておくことが多いかもしれません。その後、ポストマージャーインテグレーション(PMI)を進めていくことで、第二段階として職能制組織・機能別組織に事業再編、統合されるのではないかと思われます。
一方、買収子会社にかかる組織構造がマトリクス組織に至るまでには、買収後のグループ事業が融合し得る事業であることが前提条件であり、各グループ事業間における人材交流や連携活動が活性化されていること、買収対象会社との一体的運営が相当程度有効に機能していることが必要なのだろうと思われます。
(図表1) 職能制組織・機能別組織(図表2) 事業部制組織(図表3) マトリクス組織以上の通り、組織形態の代表的なものとして3つの典型的な形態を示しましたが、中小企業のM&Aにおいて組織構造のデザインを検討することがそれほど重要な問題なのだろうかといった疑問もあるかもしれません。しかし、買収対象会社の規模が小規模であっても、重要な経営課題であると認識する必要があるものと思われます。
一橋大学経営管理研究科教授である沼上幹氏によれば、「組織設計というのは、組織の直面している顧客や競争相手、使用している技術、従業員の特徴など、いろいろな要因によって変わるのであり、事情が異なる他社の猿マネをしていては悲惨な結末を迎えることになっても不思議ではない。」(注2)と指摘しています。したがって、M&A実行後、子会社化した買収対象会社を買手企業のグループ組織にどのように組み込むかによって、シナジー効果に大きな違いが出てくるものと思われます。
また、沼上教授によれば、「組織設計とは、『分業と調整のメカニズムの組み合わせ』であり、組織設計をデザインする上においては、「多様に見える組織設計の背後にある原理・原則に注目し、それらを多様に組み合わせて自分の会社に最も適した組織設計を工夫してつくっていく、というのが健全な姿勢なのである。」(注3)と言及しています。
買手企業がM&Aを積極的に取り入れて複数の中小企業をグループ会社化することを前提として検討する場合には、グループの組織設計をデザインすることがより一層重要な経営課題と位置づけられます。
M&Aを受け入れやすい組織設計を行っておくことは、対外的にM&Aを積極的に推進することをアピールすることができれば、M&AアドバイザーがМ売り案件を持ち込むチャンスも増える可能性がありますし、また、アドバイザーからみても、買手企業として安心感にもつながるように思われます。
⑦買い手側からみた戦略と目的(5W1H) まとめ
以上①から⑥まで『5W1H』について述べてきましたが、この『5W1H』の問題に共通している論点は、いずれについても事業戦略上シナジー効果が有効に働くかどうかが重要な検討ポイントとなっています。
なぜ、事業戦略やシナジー効果が大事なのでしょうか。それは、買収目的に適うものであるかどうかが買収検討企業にとって最も重要なテーマであり、買収検討企業の経営課題解決できるかどうかの分かれ目となるからです。
・・・つづきは次回、『≪M&A道2丁目≫中小企業M&Aにおける5W1Hとは?―⑯』でお送りいたします。 注 釈
(注1)組織形態についての説明及び図表については、日本経済新聞社編「やさしい経営学」日本経済新聞出版社(2002)192~196頁を参照し、引用
(注2)日本経済新聞社編「やさしい経営学」日本経済新聞出版社(2002)183頁
(注3)日本経済新聞社編「やさしい経営学」日本経済新聞出版社(2002)192~196頁
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