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COLUMN

2021.07.13M&A全般

≪M&A道2丁目≫中小企業M&Aにおける5W1Hとは?―⑧

  • M&A


本コラムは、M&Aキャリア25年超の当社のシニアマネージャーが執筆しております。この情報が関与先様へのアドバイスの一助となれば幸いです。



前回のつづきをお送りいたします。

↓前回分はこちら↓
 ■≪M&A道2丁目≫中小企業M&Aにおける5W1Hとは?―⑦


⑥『How(どのように)?』

『How(どのように)?』とは、主にM&Aスキームを構築し、譲渡のための段取りなど案を計画することです。
ここは、M&Aアドバイザーがオーナー経営者に対して具体的な提案を行うものです。『5つのW』について、売主であるオーナー経営者からの面談によるインタビューを踏まえ、次に考えるべき事項は、どのように売却をするかという『How(どのように)?』という論点です。

『How(どのように)?』は、主に2つあるように思われます。1つ目はこれまで申し上げてきましたM&Aスキームに関する最適解の導出です。2つ目はそのM&Aスキームを実施するための事前準備です。
1つ目のM&Aスキームの構築とは、株式譲渡スキームがよいか、それとも事業譲渡スキームがよいかといったようなM&Aの方法論の問題です。もちろん、M&Aスキームは、株式譲渡と事業譲渡の2つのスキームに限られません。
通常、M&Aスキームといった場合には、株式譲渡や事業譲渡のほかにもいくつかの手法があります(注1)。
ここでは、M&Aスキームについて体系だって説明することは省略しますが、税理士の先生やFAに求められることは、様々なスキームのなかから売却ニーズに基づいて最適なスキームを検討、構築、提案することです。

スキームについては、M&Aアドバイザーからの提案に基づきオーナー経営者が最適スキームを選択することです。
最適スキームの検討にあたっては、M&Aアドバイザーは、売主となるオーナー経営者からしっかりと聴取した『5W1H』を踏まえ構築します。その際、M&Aアドバイザーが把握していない売却対象会社や売主に関する情報や要望などもあるかもしれませんので、売主を中心としたプロジェクトチームにおいてスキーム構築のためのディスカッションを繰り返しておくことがよいのだろうと思われます。
スキーム構築にあたって早計な判断はM&Aの結果を誤らせることもあり得ますので、可能な限り多面的かつ十分慎重に検証しておくことが必要です。
早計な判断とならないようにするためには、M&Aスキームを実施するための事前準備に万全を期して行っておくことです。

それでは、M&Aの事前準備については、どのように行っていけばよいのでしょうか。
オーナー経営者を売主とする中小企業のM&Aの場合には、事業運営のために不可欠な経営資源とは別に、本来は個人として所有とすべき資産や個人事業などが売却対象会社の貸借対照表や損益計算書に計上されていることがあります。
創業以来混然一体となって自社内に持っているようなケースは少なくありません。

そうした事業体を売却対象会社とする場合には、第三者への売却するにあたって事前に整理しておく必要があります。
同族会社である売却対象会社とオーナー経営者ら個人や他のグループ同族会社などとの金銭貸借の問題、資本関係なども同様に清算、整理しておくことが必要です。
オーナー家が、本業とは関連性が全くない場合の非中核事業(例えば、本業が不動産関連事業以外の会社のビル・マンション賃貸事業など)や、遊休不動産などの会社保有不動産およびオーナー家などとの金銭貸借関係は、少なくともクロージングまでには清算することが通常想定されます。

そのため、事前に会社分割とか、事業譲渡などにより、オーナー家が非中核事業を切り離しなければなりません。また、オーナー家らとの金銭貸借があればそれらも全て清算しておかなければなりませんが、オーナー家らの資金調達上の問題などからそれをM&A実施前に清算できない場合にはどうしたらよいのでしょうか。

通常のM&A案件では、売主には譲渡対価を収受することができます。
オーナー経営者らが金銭貸借の債務者であり、売却対象会社がその債権者である場合には、M&Aの売主がクロージング時に取得する譲渡対価のなかから弁済しなければなりません。他方、オーナー家らが金銭貸借の債権者であり、売却対象会社がその債務者である場合には、当該会社に現預金等の保有の有無など弁済能力があるかどうかが問われることとなります。

このように、『How(どのように)?』では、単にスキームのメリット、デメリットもしくはリスクなどからスキームの最適解を検証するだけに留まりません。
M&A実行の事前準備として、非中核事業や資産・負債などについて整理整頓をしておくことが必要であり、その整理が現実的なことなのかどうかを検証する必要があります。
このような整理整頓が難しいようであれば、M&Aの成否が分かれることになりかねません。したがって、事前準備は、顧問税理士の先生にも協力を仰ぐ必要があり、税務関係も含めた数字で債権債務の清算が可能かどうかを慎重に精査、検証しておくことが求められます。
そのため、スキーム立案の際には、顧問税理士の先生やM&Aアドバイザーに事前相談することが賢明だと思われます。オーナー経営者ひとりの知恵や力だけでは想像もつかなかったスキーム案を経験豊富なM&Aアドバイザーが顧問税理士の先生と連携しつつ構築することが望ましい動きといえます。


以上①から⑥について個別に論点を説明してきましたが、それらについては、誰を起点として考え、誰が主体的に担うのかといった観点で仕訳しますと、次のように2つに分けられます。
1つ目の主体は売主である相談者であり、もう1つの主体はM&Aアドバイザーです。
前者は①~⑤までの『5W』であり、後者は⑥の『1H』となります。
①~⑤は売却の動機に基づく売りニーズ情報であり、⑥は①~⑤までの売りニーズ情報に基づくM&A方法の検討であり、①~⑤がなければ⑥は検討することができないものとなりますので、いわば、①~⑤と⑥は原因と結果の関係にあるといえるでしょう。結果といっても、真の結果であるクロージングを意味するものではありませんが。

上述の①から⑥について、案件進行途上で迷いが生じても大きくはぶれないようにするためには、予めM&Aの『5W1H』について自身の手帳やメモに書いて大事にもっておくことをお勧めします。そして、いつもそれを手元に持って相手先との交渉協議に臨めば、自身の考えを振り返ることができます。
初心貫徹がよいか、方針転換がよいのかは、時と場合によることでもありますので、一様にはどれが正解という話ではありませんが、方針転換を考える場合には、じっくりと状況と方針転換の原因とその後の結果を頭のなかでシミュレーションしておく必要があります。その際、筋道を立てて考えてみて妥当かどうかを検討することが感情に流されず、本末転倒にならず、自分自身を客観視して結論を導出できるのではないかと思われます。先ほども述べましたが、その際、独りよがりな考えに陥らないようにするため、顧問税理士やアドバイザーへの相談で慎重にじっくりと検証してみるように心がけることで自身でも納得感のある結論が得られるのではないでしょうか。



 ・・・つづきは次回、『≪M&A道2丁目≫中小企業M&Aにおける5W1Hとは?―⑨』でお送りいたします。


注 釈

(注1)M&Aスキームには、主に「株式の取得と事業の取得とに大別される。(中略)株式の取得は、会社法上の組織再編行為によらない通常の株式取得によるものと、組織再編行為によるものとが考えられる。組織再編行為によらない株式取得は、さらに、①株式譲渡による「(会社以外の)第三者」からの株式取得と、②第三者割当増資による「会社」からの株式の取得(新株発行と自己株式処分の場合とがある)に大別される。他方、事業を取得するには、通常の事業譲渡によるものと、組織再編行為のうち合併及び会社分割によるものが考えられる。」また、組織再編行為による株式取得として、株式交換、(共同)株式移転があるとされる。(出典)森・濱田松本法律事務所編「M&A法体系」(2015年)29頁、30頁






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