<より幅広くなった新しい公益信託>
公益信託は、大正11年(1922年)に制度化され、100年以上の歴史を持つ制度です。
この公益信託について約100年ぶりとなる抜本的な見直しが行われ、2026年4月から新しい制度がスタートしました。新制度では、従来の 主務官庁による許可制度から、行政庁による認可制度へと改められました。また、金銭だけでなく、株式や不動産なども信託財産として活用できるようになりました。さらに、受託者についても信託銀行だけでなく、一定の要件を満たせば、NPO法人や株式会社、個人なども受託者となることができます。
こうした新制度の特徴を具体的に示しているのが、2026年6月に新規認可された「地域まるごと『こども応援』公益信託」です。この公益信託は、今後追加の寄附を受け入れる予定ではあるものの、当初信託財産500万円で開始しています。また、受託者は信託銀行ではなく、認定NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」です。
500万円という規模から始まっていること、そしてNPO法人が受託者となっていることは、新しい公益信託が従来よりも幅広い形で活用されていく可能性を感じさせる事例といえるでしょう。
<株式が生み出す価値を、将来の公益へ>
相続・資産承継という観点から特に注目したいのが、「株式」の活用です。内閣府が示す資料では、企業オーナーが保有する株式を信託財産として公益信託を設定し、その株式から生じる配当金を原資として、難病治療の研究者への助成を行うといった活用例が紹介されています。
つまり、企業オーナーが築いてきた財産を一度限りの寄附として社会に還元するだけでなく、株式から継続的に生み出される価値を、将来にわたって公益活動に役立てていく仕組みをつくることも可能になります。
公益目的のために信託した株式は、信託財産として管理されるため、委託者自身の固有財産とは区分され、公益目的のために活用されていくことになります。資産承継の観点から、自らの財産のうち、どの部分を後継者や家族に承継し、どの部分を公益のために活用していくのかを検討していく必要があります。また、事業承継の観点からは、公益信託設定後の自社株の議決権を誰が行使していくかという点がポイントとなりますが、内閣府の資料等を踏まえると「委託者等の指図または助言に基づき、受託者が行使する」というスキームもあり得るでしょうし、その他のスキームとして、自社株式の一部を無議決権株式に転換した上で公益信託として信託設定するという手法等も考えられますが、個別の設計・検討が必要となる分野であり、今後コンサルティングニーズが高まる可能性があります。
また、公益信託の名称には、委託者自身の名前や社会貢献に込めた想いを反映することもできます。財産そのものだけでなく、「この財産を何のために役立ててほしいのか」という意思や理念を将来に伝えていけることも、公益信託の特徴の一つです。
<公益財団法人と比べてコンパクトな仕組み>
公益信託のもう一つの特徴は、公益財団法人を設立する場合と比べて、比較的コンパクトな体制で公益活動の仕組みを構築できることです。公益信託は法人を新たに設立する必要がなく、基本となる信託関係人は「受託者」と「信託管理人」です。一方、公益財団法人の場合には、理事3名以上、監事1名以上、評議員3名以上が必要となります。
もちろん、公益信託と公益財団法人では制度そのものが異なるため、単純に人数だけで比較できるものではありません。しかし、公益活動を継続する仕組みを検討する際、よりコンパクトな選択肢があることは大きな意味があると考えます。
<税制面でも新制度に対応>
税制面について、令和6年度・7年度税制改正により、譲渡所得等の非課税等、新しい公益信託制度に対応するための措置が講じられ、これにより、公益法人と基本的に同様の税制優遇が措置されました。
主な内容として、次のようなものがあります。
○譲渡所得等の非課税
個人が株式や不動産などの現物を寄附した際のみなし譲渡所得について、国税庁長官の承認を受けたときは非課税になります。
○寄附金控除(所得控除)
個人が公益信託の信託財産とするために支出をしたその公益信託に関連する寄附金が、特定寄附金として寄附金控除の対象となります。
○別枠損金算入
法人が公益信託に寄附金を支出したときは、一般の寄附金に係る損金算入限度額とは別枠で損金算入が可能です。
○信託財産に生じる所得の非課税
公益信託の信託財産に生じる所得は非課税とされ、利子・配当等に係る源泉所得税についても非課税となります。
このような制度面・税制面の整備によって、新しい公益信託は今後さらに活用の場が広がっていくことが期待されます。
また、受託者についても、NPO法人や管理型信託会社など、これまでとは異なる新たな担い手が登場し始めています。今後どのようなプレーヤーが参入し、どのような公益信託が生まれていくのかについても注目していきたいところです。
<相続・資産承継の選択肢の一つとして>
ここまで、新しい公益信託についてご紹介してきました。もちろん、「遺贈寄附」「公益財団法人」「公益信託」のいずれかが一律に優れているというものではありません。財産の種類や規模、実現したい社会貢献の内容、将来の運営体制などによって、適した方法は異なります。関与先様が「財産を誰に承継するか」だけではなく、「その財産を将来どのように役立てたいのか」という想いまで含めて考え、それぞれの事情に応じた選択肢をご提案していくことが、より重要になってくるのではないでしょうか。
その実現方法の一つとして、新しくなった「公益信託」にも注目してみてはいかがでしょうか。
私ども日税グループでは、株式会社日税経営情報センターにおいて家族信託のコンサルティングを、株式会社日税信託において商事信託を取り扱うとともに、2025年1月より遺言信託の取扱いも開始しております。
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