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COLUMN

2024.06.18M&A全般

株式価値評価における現預金の取扱いについて

  • M&A

1.総説
M&Aにおいて企業の株式価値評価は必須ですが、この株価評価方法の一つにDCF法(Discounted Cash Flow)というものがあります。これは簡単に言えば、将来にわたって期待される企業のフリーキャッシュフローを現在価値に割引いて株価を算定するというものです。今回は、このDCF法における留意点として、現預金の取扱いについて言及します。日本企業は総じて資産に占める現預金の割合が多いとされており、この現預金の取扱いによっては株価算定に影響を与えることとなるからです。

2.DCF法について
DCF法においては、企業価値は事業キャッシュフローの割引現在価値(=事業価値)と非事業用資産残高との合計として把握されます。非事業用資産とは企業が保有していながらも事業用には利用されておらず企業のキャッシュフローに影響を与えない資産であり、例えば、遊休不動産などが該当します。但し、現在は利用されていないが、将来利用する計画がある場合には非事業用とは認識されません。非事業用とは、現在も将来も企業の利益創造プロセスに関与しないものということです。ここで現預金の場合にはどこまでの範囲を非事業用として認識するかが問題になります。現預金を事業用と非事業用に区分できれば、非事業用のみを事業価値に加算して企業価値を算出することが可能となります。企業活動では現預金がなければ決済など事業活動に支障をきたすことになるので、決済の為に必要な現預金を事業用現預金とし、それを超過する分を非事業用として認識する考え方があり、このためには資金繰りデータが必要となりますが、このデータから最低水準の現預金残高を確認し、この水準を事業用と非事業用の分かれ目として捉えることができます。しかしながら、対象企業を外部から評価する場合、現預金残高の詳細な動きを確認することは難しく、そのような場合には、簡便法として売上高の一定比率を事業用現預金として見なすという考え方もあります。アメリカの例ですが、『企業価値評価』(著者:マッキンゼー・アンド・カンパニー、トム・コープランド、ティム・コラー、ジャック・ミュリン)の中では、現金だけでなく有価証券と合わせて、経験則的に売上高の0.5~2.0%を超える現金と有価証券を余剰と見なすことが多いということが記されています。

3.最後に
ところで、事業価値を算出する際の割引率にはWACC(Weighted Average Cost of Capital:加重平均資本コスト)を適用することが通例ですが、有利子負債を持たない無借金経営で余剰現預金残高が多い企業については、株主資本コストの推計において注意が必要となります。それは余剰現預金の存在によって、対象企業のベータや期待収益率がこの会社の本来の事業資産からのベータや期待収益率を薄めていると考えられるからです。もちろん、この余剰現預金をマイナスのレバレッジとして捉えて資本コストの計算を補正することは可能です。
以上のように、余剰現預金の取扱いは株価評価にも影響を与えることから注意が必要です。現預金を事業用と非事業用に確りと区分認識することは、上述のような問題を回避する上でも効果的と考えられます。簡便法によって余剰現預金を認識する手法もありますが、企業によっては簡便的に認識される余剰現預金が実際の余剰現預金の水準と乖離が大きくなるケースもあり、この場合には誤った評価に繋がりかねず、やはり丁寧なアプローチが求められるものと考えます。M&Aでのデューデリジェンス等において売主側または買主側から委託を受けて株価算定を行う場合には、通常は委託者から詳細なデータの提供を受けることが可能になりますので、余剰現金の水準を把握できるケースも相応にあるのではないかと思われます。



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