執筆者:株式会社日税経営情報センター シニアマネージャー
2023年に日本企業が関与したM&Aの年間件数をレコフデータで確認しますと4015件となりました。過去最多となった2022年の4304件に比べて289件(6.7%)の減少となりました。前年比で減少となるのは2020年以来3年ぶりとなります。この2023年の4015件のうち、国内企業同士のM&A件数は、3071件となり、前年比274件(8.2%)の減少となりました。
1.不動産M&Aとは不動産M&Aとは、M&Aスキームを活用した不動産譲渡であり、簡単に言えば、土地、建物といった不動産を所有する法人の株式を譲渡する手法です。この不動産M&Aという手法は中小企業経営者や相続問題を解決する戦略としても活用されています。法人が所有する土地を売却して売却益が発生する場合、この利益の30%前後は法人税課税の対象となり、更に企業オーナーが廃業、法人解散をしようとすると株主への利益分配に対して最大45%の税率を課されることになります。一方、不動産M&Aの場合には不動産を所有する法人の株式を譲渡することによって株式売却益に対する分離課税として相対的に低い税率での課税となることから、税制上有利な出口戦略と言えるのです。街中には多くの土地や建物が立ち並んでいますが、これらの中には法人所有のものも多く、不動産売却した場合に不動産の売却益が多額になるケースや経営者が高齢のため法人の解散を検討しているケースも多いと推察され、税制上のメリットがある不動産M&Aは今後も出口戦略として検討される場面が多いのではないかと思われます。
2.不動産M&Aのメリット売手にとって税制上メリットのある不動産M&Aは、買い手にとっても不動産取得税や登録免許税など不動産購入時に発生するコストを節約できるというメリットがあります。しかしながら、不動産M&Aは株式譲渡というM&A手法であることから、そこにはM&A特有のリスクが存在することも事実です。株式譲渡という手法は会社の全てを譲渡する包括譲渡になるので不動産以外の会社の債権・債務も引き継ぐことになり、所謂「隠れた債務」には注意が必要です。また売手が保有する不動産の取得簿価を引継ぐことになるので、買手が株式譲受後に不動産を売却すると引継いだ簿価で計算される売却益に対する課税を負うことになります。買手は不動産M&Aによって不動産簿価や会社の債権債務を包括的に引継ぐ前に確りと事前確認(デューデリジェンス:due diligence)を行なっておくことが必要になり、会計、税務、法務などについて事前に対象法人の内容を確認しておくことが大変重要です。
3.不動産M&Aの特徴不動産M&Aが不動産売買と異なる特徴としては、上述した税制上のメリットの他に市場プレーヤーが限定されてしまうという点が挙げられます。M&Aにおいては不動産情報だけでなく、会社の決算情報などの重要情報を取り扱う事になるため、機密情報の守秘性に配慮した進め方が求められることになります。そのため買手を探す際には情報をオープンにして幅広くアプローチするということがどうしても難しくなります。また買手になることが多いと考えられる不動産開発会社などについて言えば、大手と異なり、中堅以下の規模の会社ではM&Aに対応できるリソースを備えたところがまだまだ多いとは言えません。その為、大手不動産開発会社が検討できるような大型案件の場合にはまだしも、小型案件となると、買手を探すのに相応に骨が折れるということになる可能性があります。不動産M&Aはそのメリットのために注目度が上がってきているのですが、まだまだ市場は発展途上と言ってもいいかもしれません。しかしそのような不動産M&Aも昨今は市場が拡大しているように思われます。不動産市場において不動産会社間の物件争奪競争は熾烈を極めており、各社ともに物件の収容は容易ではありません。そのような競争環境の下、以前であれば不動産M&Aに対応してこなかった中堅以下の不動産会社において不動産M&Aを活用して不動産獲得を図る会社が増加している様です。中には「不動産M&Aを始めました。」というコピーでマーケティング活動を行なっているところもあリ、他社との差別化を図ろうとしています。日本全体では中小企業経営者の高齢化や依然として廃業の動きも見られることから、潜在的な売手は多いと考えられ、一方の買手についても不動産業界の競争を背景に不動産M&Aプレーヤーの増加傾向が見られることから今後も不動産M&Aは拡大歩調を辿るものと思われます。
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