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COLUMN

2023.10.11M&A全般

外国企業の資本コスト推計について

  • M&A

今日では国境を跨いだクロスボーダーM&A(日本企業による外国企業の買収または外国企業による日本企業の買収)が珍しくありません。レコフM&Aデータベースで見てみますと日本企業が関わったクロスボーダーM&Aが増加傾向にあることが判ります。特に、日本企業による外国企業の買収(=IN-OUT型買収)の伸びが顕著です。日本国内市場の飽和もあり、企業は生き残りをかけた競争を勝ち抜くために買収機会を海外に求めるわけです。クロスボーダーM&Aは、法律、会計、税務、通貨、その他の制度や諸規則はもちろんのこと、言語や文化においても異なる企業間で行われます。国内企業同士のM&Aに比べて買収プロセスは複雑になり、企業の株式価値の算定においても計算プロセスは複雑になります。今回はこの外国企業の買収価値を算出する際に重要な株主資本コストの推計について簡単に説明します。為替や物価の変動も考慮してリスクプレミアムを推計する必要があるのですが、推計する方法の1つに米ニューヨーク大学のAswath Damodaran教授が開発したDamodaranモデルというものがあります。このモデルは簡単に言えば、基準とする通貨建ての株主資本コストに投資対象のカントリー・リスクプレミアムを付加して投資対象の株主資本コストを推計するというものです。
対象国企業の株主資本コスト=基準国企業の株主資本コスト+対象国カントリー・リスクプレミアムということで、モデルの簡便式は下記のように表されます。

 Re=Rfd+β1(Rmd-Rfd)+β2(Rtd-Rfd)×(σtm÷σtd)

      ・Re 対象国企業の株主資本コスト
      ・Rfd 自国の国債利回り(リスクフリーレート)
      ・Rmd 自国の株式市場リターン
      ・Rtd 対象国の国債利回り
      ・σtm 対象国の株式市場ボラティリティ
      ・σtd 対象国の債券市場ボラティリティ
      ・β1 自国の株式リスクプレミアムに対する感応度
      ・β2 カントリー・リスクプレミアムに対する感応度

この算式において、β2より後の下線部がカントリー・リスクプレミアムに当たります。
こうして推計された株主資本コストを用いて対象国Xの企業Aの株価を推計するわけです。
推計された株価はまだ対象国通貨建てですので、これを為替レート(スポットレート)で自国通期建てに換算するということです。
Damodaranモデルのメリットは、カントリー・リスクというものに対して投資家が抱く肌感覚に合い易いということかもしれません。一般的に、先進国に比べて新興国はリスクが高いとの感覚があります。Damodaranモデルでは、そのような国のリスクプレミアムが高く推計されることから比較的理解し易いモデルと言えます。
しかしながら、モデルにはそれぞれ一長一短があり、このDamodaranモデルも決して万全とは言えません。カントリー・リスクプレミアムの推計を少しでも正確に行おうとすれば、国債市場、株式市場、インフレなどのマクロデータに加えて社債格付など多くのデータが必要となります。新興国においてはこうした統計整備の充実度が先進国に及ばないこともあり、推計の精度も影響を受けることは避けられません。
推計方法は他にもあり、CAPMを海外企業の株主資本コスト推計に利用する拡張型CAPMという考え方もその1つです。このモデルではリスクフリーレートと株式市場リスクプレミアムという変数に基づいてアプローチする点では伝統的CAPMと同じなのですが、海外市場、特に新興国において当該国の国債利回りをリスクフリーとして認識できるのか等、やはりモデルには限界もあります。外国企業の株価推計を行う際に当該通貨建てのキャッシュフローを自国通貨建てに変換してこれを自国の資本コストで割引いて株価を算出する方法もあります。フォワードレート法と呼ばれる方法ですが、これは二国間の金利格差によって将来の為替レートが決定されるという金利平価説に基づいたものであり、判りやすく使い易いものですが、自国の資本コストを用いることから対象国のリスクが反映されないという欠点があります。
クロスボーダーM&Aなど、外国企業の企業価値を推計する場合には、こうしたモデルの特徴を踏まえた上で推計結果を見る必要があります。



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