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COLUMN

2023.07.04M&A全般

日本企業の稼ぐ力は改善するか

  • M&A

執筆者:株式会社日税経営情報センター シニアマネージャー


過去のコラムで日本ではPBR1倍割れ企業の数が多くなっており、その背景として収益性が低いために市場での企業価値評価が低くなっているということに言及しました。
企業の収益性が低くなってしまう要因として、経営資源の最適な配分において遅れをとっているということが指摘されます。日本では事業で稼いだ収益を設備投資や研究開発など将来に備えた戦略投資に積極的に回さずに内部留保として積み上がった企業が少なくありません。今後、日本企業が資源配分の好循環を取り戻し、収益性を改善する事が出来るかどうかを考える上で先例としてアメリカのケースを見てみます。
アメリカでは1980年代にM&Aが活発に利用され、多角化した巨大コングロマリットの解体をはじめとする事業配分の見直し、いわゆる「選択と集中」が大胆に推し進められ、その後の競争力回復へと繋がりました。企業が子会社や事業を他の企業に切り離し売却するケースが多くなり、従前からの経営路線上での規模拡大だけではなく、経営路線の方向転換を大胆に行うためにM&Aの利用が増加しました。また、この時期のアメリカにおいて大胆な経営判断を行わせる要因として経営者の意識変化も指摘できます。1970年代以前のアメリカでは企業の経営者には内部昇格者が多く、また機関投資家のような株主も少数であったことから、経営者が自身の報酬や社会的名声を高める目的で企業規模の拡大を追求しがちになり、これが多角化戦略の採用へと結びついた面があります。しかし、その後のアメリカでは機関投資家の占有率の高まりや敵対的買収の脅威など、経営者に対する市場からの圧力が強まり、経営者に収益力向上を意識させるようになったわけです。さらにガバナンス構造においても1980年代以降、内部昇格経営者は社外出身経営者に取って代わられるようになり、こうした社外出身経営者の登用が増えたことも過去の経緯に捉われない大胆な経営判断を可能にするという点で有用であったと考えられます。
さて次に日本の場合を見てみましょう。日本でも過去のアメリカと同様に1980年代には事業の多角化など規模の拡大を追求する動きが見られましたが、バブル崩壊とともに不採算事業が増加し収益力を低下させることとなりました。しかしその後の展開はアメリカのケースとは異なり、日本において選択と集中はあまり進みませんでした。全体として、多角化のような規模拡大の動きは大人しくなったのですが、事業セグメントの数はさほど減少せず、不採算事業からの退出はあまり進まなかったということなのです。ガバナンスの改革においても日本ではアメリカに比べて変化は小さなものになっています。日本銀行調査統計局のレポート「米国の製造業における1980年代~90年代の経営改革」(2015年3月)によれば、企業経営者については、社外取締役は日本で7%(2005年)ですが、アメリカでは85%(同年)となっており、CEOの外部登用比率は日本3%(2012年)ですが、アメリカでは22%(同年)という具合に、日本の場合は大胆な経営改革を推し進めやすい土壌にはなっていないように思われます。要するに日本は経営判断としての選択と集中の程度やスピードが小さく、またそれら経営判断を行うガバナンス構造においても変化が小さく、結果として、不採算事業からの退出が進まず、収益性を改善できない状態を引き摺っているわけです。 ところで、日本がデフレから今一つ立ち直れないのは人々がお金を使わなくなったことも原因の一つであり、日本経済を成長軌道に乗せるためには勤労者所得の増加が重要だとする指摘があります。しかし、継続的に勤労者所得を増加させるためには企業の収益、つまり企業の稼ぐ力が改善しなければ成り立ちません。企業収益の改善なくして所得の増加は望めないのです。近年、東証の取組みとしてスチュワードシップ・コードやガバナンス・コードが策定され、今年1月には企業価値評価の低い企業の経営者に改善に向けた具体的な取組内容の開示を求めていくという対応策も発表されました。これらの取組が効果を表し、日本企業の経営改善が進んで収益性の向上に繋がることが期待されますが、ここで留意しておくべき点があります。収益構造を改善するために選択と集中が求められますが、投資による生産能力改善を推し進める上で、現場で働く従業員のスキルやモチベーションアップ、さらに配置転換、採用、退職など労働市場の柔軟性といった事が相応に求められるということです。最近よく耳にするDX(デジタル・トランスフォーメーション)についても、デジタル化に対応出来るように従業員の能力開発を行なったり、デジタル人材を採用したりという事が出来なければ効果は限定的です。リスキリング、リカレント教育、従業員エンゲージメントなど従業員への取組みはお金が掛かりますが重要な施策と言えますし、また企業間や産業間での労働市場の流動性についても重要です。企業を後押しする環境は徐々に改善しつつある様にも思われます。今後の企業経営者は、改善を進めるために経営判断を先送りすることなく、リソースの再配分を確りと行い、そして好循環に繋げていくという大変高度な経営が求められてきます。





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