執筆者:株式会社日税経営情報センター シニアマネージャー
この2023年度に企業が事業部門を新会社設立によって分離独立させる際の所謂「スピンオフ税制優遇」が拡大されます。事業の分離独立に係る税制優遇措置は既に2017年度に導入されているのですが、分離対象が元の会社から完全に切り離されることを要件としていたことから利用例が殆どなく、経団連などは一定の資本関係を残す場合にも適用されるように要望していました。今回の税制優遇拡大では、要件を完全分離から「株式保有20%未満」に緩和することとしています。分離後に元の会社と一定の資本関係を維持してブランドやシステムを引続き使用する場合や取引先との関係維持の点から完全分離をするよりも当面は少数株式保有を維持する方が望ましいという場合も結構あることから、2017年度に導入された優遇措置は企業にとって必ずしも使い勝手の良いものではなかった様です。
ところで、事業や組織の再編に関しては、スピンオフやスピンアウトなど似た言葉を耳にしますが、夫々どう違うのかを簡単に整理しておきます。まずスピンオフですが、これは一般的には事業を分離独立させる際に元の会社との資本関係を完全に排除することなく出資支援を受けて分離する場合です。一方、スピンアウトは元の会社からは完全に資本関係を無くす場合であり、例えば、対象事業部門の役員がMBOによって新会社を設立して独立するようなケースです。スピンオフとスピンアウトとは出資関係が異なります。また、カーブアウトという言葉もよく耳にしますが、これは文字通り一部事業の「切り出し(Carveout)」ということであり、スピンオフもスピンアウトも含めて広い意味で用いられることが多い様です。
日本は欧米と比較して事業再編、組織再編が少ないと言われています。PBR1倍割れ問題など、日本企業の利益成長性が低いということが問題として指摘される中、企業が成長性を高める上で事業ポートフォリオを見直すことは避けて通れない課題であり、再編手段が制度的に改善整備されることは大変重要です。今回の優遇拡大は今年度限りの時限措置とされていますが、実際にベンチャー創出や事業再編の事例が誘発されれば、制度の恒久化を求める声も強くなる可能性があります。日本企業、特に大企業の中には表に出ずに埋もれている事業、研究成果、経営資源が多くあります。これらを分離独立させて、新たな企業、新たな事業、新たな市場を創造していくことによって経済成長の底上げにつなげていくことができるのです。事業の切り出しを行う元の企業は、経営資源を集中させることが可能になり、成長スピードを加速させることが可能になるのです。
切り出しには様々な手法がありますので、ここで簡単に整理しておきます。まず、「事業譲渡」です。これは企業が事業の一部または全部を第三者に売却するものです。株式譲渡のように会社全体を包括承継するものではなく、対象となる事業を個別承継するものです。買手にとっては、欲しい事業だけを承継でき、簿外債務などを引き受けるリスクがないのですが、対象事業の従業員が退職・再雇用という扱いになることや取引先との契約も結び直すことが必要となる等、手続きは煩雑になります。また許認可についても譲受者が取得している必要があります。次に「会社分割」があります。これには分割後の会社(承継会社)の株式を誰が保有するかによって更に「分割型分割」、「分社型分割」の区分があり、また分割後の事業の帰属によって「新設分割」、「吸収分割」の区分があり、計4種類の分割パターンがあります。会社分割では事業の分離もさることながら、事業譲渡のような従業員の雇用手続や許認可取得の問題は少なくなります。(許認可の再取得が必要な場合もあります。) 分割後は会社が分離されていますので株式譲渡によって売却することが可能になります。他に、「株式移転」というものもあり、これは持株会社を設立してその傘下に事業ごとに会社を配置する場合に用いられ、切り出しを行い易くすることができます。
今回のスピンオフ税制の拡大措置によって、どのくらい事業の分離独立が発生するかは判りませんが、少なくとも企業の再編を行いやすくする制度環境づくりという点においては評価できる取組みです。今後を見守っていきたいと思います。
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