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COLUMN

2022.12.20M&A全般

企業価値創造への非財務的資本の重要性

  • M&A
  • 企業価値
  • 非財務的資本

執筆者:株式会社日税経営情報センター シニアマネージャー



前回のコラムで「伊藤レポート」に言及しました。
同レポートでは、日本企業において中長期的成長を目指す上で人材投資や研究開発投資など無形資産への投資を重要視する声が少ないという調査結果を踏まえ、日本企業が今後中長期的に成長していくためには、無形資産も含めた企業の資源配分の改善が必要であり、しかも利益一辺倒に陥るのではなく、株主・従業員・顧客・サプライヤー・地域社会など全てのステークホルダーと中長期的な関係を構築することの重要性が指摘されていました。
今回は、同レポートの中でも重要な資源配分対象として指摘されている無形資産など非財務的な側面について触れてみたいと思います。

無形資産は、その名のとおり物的形態が存在しない資産であり、例えば、特許・商標権などの知財(知的財産)、研究開発や技術力、従業員の能力、さらには企業文化・ブランド・社会的評価など様々なものが含まれ、広義には、財務諸表上では表現し難い非財務的資産ということになります。日本流に言う「暖簾価値」とも重なります。

日本企業は、こうした形のない資産への投資が少なく、成長性に対する評価も低くしてしまっているとの指摘がなされているのですが、一方で、こうした無形資産への投資を進めるうえで、企業の非財務的側面を適切に把握することが出来るのかという問題が出てきます。

近年のESG投資の拡大を背景に、グローバルに投資家が投資対象企業の非財務情報を重視する姿勢を強めていることもあり、この問題への取組みは、日本に先んじて海外で活発です。
国際統合報告評議会(IIRC)、サステナビリティ・アカウンティング・スタンダード・ボード(SASB)、グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)からは、非財務情報を把握するためのフレームワークやスタンダードといったものが発表されています。
日本でも、近年は議論が活発になってきており、先進的な例として、製薬会社エーザイの取組みを紹介することができます。

同社では、非財務的な要素の取扱いについて、2020年に開示した統合報告書でその内容を説明しています。
IIRCのフレームワークを基に、価値創造プロセスのベースとなる資本を6つの資本(「財務資本」「知的資本」「人的資本」「製造資本」「社会・関係資本」「自然資本」)として捉え、財務資本以外の非財務資本の充実により企業価値の向上を図ることを明記しています。
近年、統合報告書にESGの取組みを記述している企業は多数ありますが、同社においては更に一歩進め、非財務情報の計量化を試みているという点を先進事例として指摘できます。

同社のモデルでは先の6つの資本のうち、財務資本が会計上の簿価資本に該当するものであり、それ以外の5つの資本が市場付加価値を形成する部分として捉えています。PBR(株価純資産倍率)で言えば、1倍を超える部分は5つの資本の評価ということになります。

同社は非財務資本と企業価値との関係性において感応度分析を行っており、両者の間にはポジティブな遅延効果があるという結果を確認しています。例えば、以下のようなものです。
  • 人件費投入を1割増やすと、5年後のPBRが13.8%向上する
  • 研究開発投資を1割増やすと、10年超でPBRが8.2%拡大する
  • 女性管理職比率を1割改善(例:8%から8.8%)すると、7年後のPBRが2.4%上がる
  • 育児時短勤務制度利用者を1割増やすと、9年後のPBRが3.3%向上する

同社では、これら非財務資本を反映した「ESG EBIT」という利益指標を考案しています。
これは、営業利益(EBIT)に研究開発費と人件費を足し戻したものです。研究開発費や人件費は遅延効果によって将来の利益として企業価値を創造するものであり、費用ではなく無形資産投資として考えられるということです。
中長期的な企業価値成長のためには、このESG EBITが資本コストを上回ることが求められます。

企業が長期的且つ持続的な競争優位を獲得するためには、他社に差別化出来る利益創出能力を確保することが求められます。
収益力向上は、生産設備などの目に見える有形資産だけではなく、人的資本や技術・ノウハウ・知的財産など無形資産の果たす役割も大変大きく、そうした無形資産への投資も考慮に入れた経営がますます重要となってきます。
自社の持続的成長に不可欠な資本投資は何かを特定し、人材や研究開発など無形資産を含めた資源の最適配分に適切に対応していくことが企業に求められているのです。




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