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COLUMN

2022.11.29M&A全般

企業価値と成長投資

  • M&A

執筆者:株式会社日税経営情報センター シニアマネージャー



M&Aの現場で興味深い現象を目にします。
株価算定には様々な手法がありますが、企業が稼ぎ出すキャッシュフローに着目して企業価値を評価した場合に、株価が純資産価値を割り込んでしまうことがあるのです。
黒字を継続している企業であっても、利益率が低い場合にはこのように低い株価評価が出てくることがあります。

投資の世界でよく用いられる指標の1つにPBR(株価純資産倍率)というものがあり、これは企業の純資産と株価の関係を表した指標ですが、「PBRで1倍割れの株価」ということは、株価が解散価値とも考えられる純資産を割り込んでいるということになります。
利益率が低い場合にPBRが低くなる現象は、PBRの算式を分解すれば理解できます。
PBR=株式時価総額/純資産ですが、PBR=ROE×PERと分解できます。ここでROE(株主資本利益率)はROE=利益/純資産となり、またPER(株価収益率)はPER=株式時価総額/利益となります。

日本の株式市場を欧米市場と比較して日本企業の株価水準が割安だとする議論をよく耳にします。
日本企業のPBRやPERが欧米企業に比較して低い現象をとらえてそのように言うのですが、日本企業が利益率で欧米企業に比べて見劣りしていることを考慮すれば、必ずしも賛成はできません。

日本企業の利益率の低さはデュポン算式でも明確になります。
ROE=(利益/売上高)×(売上高/総資本)×(総資本/純資産)となりますが、第1項は売上高利益率、第2項は総資本回転率、第3項は財務レバレッジです。
日本企業を米国企業と比較した場合、財務レバレッジはほとんど大差なく、総資本回転率では日本企業の方がむしろ高いのですが、売上高利益率は大きく水をあけられており、ROEが低くなっているのです。

日本企業の利益率が国際的に見劣りしているために、投資家からの株価評価も低いと言えるのです。
この点については国でも認識しており、経済産業省では、2014年に「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」の最終報告書(いわゆる「伊藤レポート」)を発表し、資本コストを上回るROEの達成が重要との指摘を行っています。
伊藤レポートはその後2017年にアップデートされ、さらに本年8月には伊藤レポート3.0として発表されていますが、この一連のレポートでは、中長期的な企業価値向上を目指す上で企業の稼ぐ力を持続的に高めることが重要であり、そのためには中長期的な観点から無形資産も含めた企業の資源配分の改善が重要であると指摘がなされています。
また、株主だけでなく、従業員・顧客・サプライヤー・地域社会など全てのステークホルダーとの中長期的な関係を重視し、利益一辺倒に陥らないことが重要として持続的成長のためにESGの観点も重要視しており、スチュワードシップコードやコーポレートガバナンスコードなどとも符合しています。

企業の稼ぐ力の持続的向上を図るために経営資源配分の改善が鍵を握るわけですが、日本企業における資源配分の現状はどのようなものなのでしょうか。
伊藤レポートの中でも指摘されていますが、日本企業の経常利益は上昇傾向にあり、それに伴って保有する現預金水準が増加している一方で、人件費や設備投資など中長期的な成長に向けた資源配分が少なくなっているという状況にあります。
また同レポートの中では、中長期的な投資で重要視するものとして、人材投資・IT投資・研究開発投資など無形資産投資を挙げる企業が少ないという調査結果も指摘されています。
日本企業のPBRが低い、株価が低いといった現象の背景として、投資家から見た場合の利益成長期待が低く、さらにその利益成長の低い理由として経営資源配分のあり方、成長投資の欠如が指摘されるわけです。
投資家の利益成長期待を表す尺度としての資本コストを企業の利益率が上回っていることが求められるのですが、この資本コストは企業のステークホルダーや社会からの様々な要求により上昇していくことが考えられますので、持続的に企業の利益成長が為されねばならず、そのためにも企業は将来の利益成長に繋がる成長投資をしっかりと行なう必要があるのです。

どのように成長投資を行うかは企業経営者が判断して進めることになりますが、今まで多くの日本企業では保有現金が増加した一方で、成長投資があまり行われてきませんでした。
経営者の意識改革は大変重要です。日本企業の飛躍を信じて、今後の変革を見守っていきたいと思います。




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