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COLUMN

2022.07.26M&A全般

M&AとESGとの関係

  • M&A
  • ESG

執筆者:株式会社日税経営情報センター シニアマネージャー



企業経営においてサステナビリティ(持続性)という観点が重要視されるにつれ、ESGという言葉もよく見かけるようになりましたが、この言葉は、Environment(環境)Social(社会)Governance(統治)それぞれの頭文字を組合せたものとして知られています。
この言葉が広く知られるようになるきっかけとして、2006年に発表された国連PRI(責任投資原則:Principles for Responsible Investment)を指摘することができます。

責任投資という概念そのものは、古くはキリスト教会がギャンブルや酒・タバコなど教会の倫理に適さない企業への投資を行わないという姿勢をとったことに遡るとも言われており、社会的責任投資(Social Responsibility Investment)という言葉も以前からありましたが、国連が提唱する責任投資では機関投資家の投資プロセスにおける観点としてESGという要素を掲げており、これはその後2015年に設定された持続可能でより良い社会を目指す国際的目標であるSDGs(Sustainable Development Goals)とも符合しています。

このESGは日本でも普及するようになったわけですが、普及に寄与したものをいくつか挙げると、まずは2014年に金融庁が発表した「責任ある機関投資家の諸原則」(所謂「日本版スチュワードシップ・コード」)が挙げられます。
これは投資対象となる企業の持続的成長に資するために機関投資家は企業との議決権行使も含めて建設的な対話を行うなどスチュワードシップを発揮することを提唱したものです。
翌2015年には東京証券取引所から「コーポレートガバナンス・コード」が発表されています。実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたものであり、企業の持続的成長と中長期的な企業価値向上のための自律的な対応を通じて、企業、投資家、ひいては経済全体の発展にも寄与することになるものとしています。

企業活動に持続性(Sustainability)を求める動きが普及しているわけですが、M&Aの世界においてはどのような動向が見られるのかを簡単に紹介します。

PwCは、レコフM&Aデータベース(2021年までの5年間データ)を用いて日本企業が当事者となった案件を対象としたテキストマイニングや事例抽出による分析を行い、「サステナビリティ経営へのシフトとM&Aの関係(2022年版)」というレポートを発表しています。
これによると投資目的や投資対象となった企業の事業内容などにESG投資やSDGsへの取組を含むM&A案件が2018年は14件、2019年は17件、2020年は34件ですが、2021年には273件と大きく増加しています。
また、テキストマイニング分析では「SDGs」「ESG」「サステナブル・持続可能」をキーワードとして含むM&A案件において2021年の件数増加が大きくなっています。
日本企業がサステナビリティ経営のための手段としてもM&Aを活用し始めているということかもしれません。

レポートではESG各要素についての分析もなされています。
E(環境)においては、脱炭素、サーキュラーエコノミーに関するM&Aが増加傾向にあります。
S(社会)においては、「働き方改革」といった注目度の高い社会課題に関する事業分野ではM&A件数の増加傾向が見られますが、それ以外の分野では増加傾向は見られません。
G(ガバナンス)は、日本では2021年に東証のコーポレートガバナンス・コードが改訂されたこともあって注目度の高い要素ですが、PwCのテキストマイニング分析でも「ガバナンス」をキーワードとして含むM&A案件は拡大傾向にあります。ESGの要素の中でも特にガバナンスは買収後のPMIにとっても非常に重要な分野であり、買収側においてその重要性の認識が進んでいるとも考えられます。また近年のM&A案件ではファンドが買収者となるケースも増加しており、企業価値向上に向けた対話を求めるなど株主アクティビズムといった背景もあるものと思われます。

以上のとおり、M&Aの世界においてもESGに関連したM&Aは近年増加しています。2021年のM&A件数がレコフデータで4,318件となっているのに対して、M&A関連の件数は273件と全体の6%程度とまだ決して多い水準とは言えませんが、スチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コード、官民をあげたSDGsへの賛同など、サステナビリティを重視する動きが社会的にも制度的にも高まりつつあることを考えると、企業経営の手段としとしてのM&AにおいてもESGに関連した動きが今後も増加していく可能性があるものと思われます。





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