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2022.08.16M&A全般

M&AとESGとの関係② 2つの行動規範:スチュワードシップ・コードとコーポレートガバンンス・コード

  • M&A
  • ESG

執筆者:株式会社日税経営情報センター シニアマネージャー



前回コラム『M&AとESGとの関係』の中でESGの普及に影響を与えたものとして、「スチュワードシップ・コード」「コーポレートガバンス・コード」という2つの規範に言及しました。
今回はこれらの行動規範についてその趣旨と策定された背景などについてお伝えします。

まず、スチュワードシップ・コードですが、日本では2014年に金融庁が発表した「責任ある機関投資家の諸原則」がいわゆる「日本版スチュワードシップ・コード」として知られています。日本版とされていることからもお分かりのとおり、海外において先行事例があり、イギリスでは2010年にこの概念が生まれています。

背景としては、2008年に起こったリーマンショックからの反省が挙げられます。
リーマンショックは、投資銀行リーマンブラザーズの経営破綻に端を発した世界的金融危機ですが、この経営破綻の原因はサブプライム関連債権への過度な投資にありました。このような機関投資家が投資対象に対する監視を怠って利益追求のためにリスク選考を過度に進めたことに対する反省から、イギリスでは2010年にスチュワードシップ・コードが生まれるに至ったわけです。

金融庁が発表した日本版はそれを日本向けに作成したものと言えます。
日本版スチュワードシップ・コードはその後2017年、2020年にそれぞれ改定がなされています。このスチュワードシップ・コードでは、機関投資家の責任としてスチュワードシップ責任というものを定義しており、機関投資家が投資先企業やその事業環境等に関する深い理解のほか、運用戦略に応じたサステナビリティの考慮に基づく建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)などを通じて、当該企業の企業価値の向上や持続的成長を促すことにより、顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図る責任とされています。
また、目的をもった対話(エンゲージメント)を促すものであって、機関投資家が投資先企業の経営の細部にまで介入することを意図するものではないとの記述もあり、企業側の企業統治を尊重した形になっています。
コードでは、機関投資家がそのスチュワードシップ責任を果たすための行動原則を定めていますが、法令のように法的拘束力を有するものではなく、趣旨に賛同し、これを受け入れる用意がある機関投資家に対してその旨を表明することを期待するとしつつ、「コンプライ・オア・エクスプレイン」(原則を実施するか、しない場合にはその理由を説明する)の手法を用いて、行動内容を細かく決めるのではなく、個々の機関投資家の状況を尊重した原則主義の形をとっています。

スチュワードシップ・コードは、企業の持続的成長を促す上で、投資する側である機関投資家に対する行動規範として存在するものですが、一方で投資される側である企業に対しての行動規範としては「コーポレートガバナンス・コード」というものが策定されています。
日本では2015年に金融庁と東京証券取引所が共同でコーポレートガバンス・コードを発表しましたが、海外では日本よりも早く、イギリスでは1992年にその源流を見ることができます。

当時、イギリスでは80年代後半から上場企業の不祥事が相次ぎ、経営陣に対する不信感が高まっていました。そのような環境の下、ロンドン証券取引所と公認会計士団体が企業財務に関するガバンス検討委員会を設立し、キャドベリー・シュウェップス社元会長を座長として1992年に報告書(いわゆるキャドベリー報告書)を取り纏めました。
同委員会では取締役会、非常勤取締役、常勤取締役、監査人に対する行動規範を定め、同委員会の勧告を受けて、取引所は上場企業に対してこの行動規範への遵守を年次報告書で開示し、遵守していない場合にはその理由を記載することを上場規則として義務付けたのです。
イギリスではその後も議論を重ね、行動規範の統合改変を経て2010年にコーポレートガバナンス・コードが策定されています。

日本のコーポレートガバナンス・コードはこうした先行事例を研究して当時の安倍政権下での成長戦略のもと、持続的成長に向けた企業の自律的な取組を促すため、2015年に策定されました。
構成は、「株主の権利・平等性の確保」、「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」、「適切な情報開示と透明性の確保」、「取締役会等の責務」、「株主との対話」という5つの原則から成り立っていますが、スチュワードシップ・コードの場合と同様に原則主義とコンプライ・オア・エクスプレインという方式になっており、各企業の状況を尊重した形になっています。
コーポレートガバンス・コードはその後2018年と2021年に改定がなされ、2021年版では「人的資本」の情報開示についても言及されています。

自律的な持続的成長を促すために、投資する側と投資される側の両者に対してそれぞれの行動規範が作られたわけですが、これらは上場企業を対象としたものになっています。ESGの取組についてはコストが掛かるものもあり、中小企業のレベルで即時に取組を加速させることは難しい点もあると思われますが、一方で世間でのSDG'sへの認知の広がりとともに、そうした取組が出来ない企業は徐々に存続が難しくなっていく可能性があります。
M&AにおいてもESGに絡んだ事例が出始めていることから、今後はESGの観点を無視した短期的利益至上主義とも言えるM&Aは成立し難くなることも予想されます。個々の企業においては今まで以上に様々な関係を意識した経営姿勢が求められてくることになります。




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