執筆者:株式会社日税経営情報センター シニアマネージャー
前回コラム『
PEファンド実態調査より』では、プライベートエクイティファンド(PEファンド)について、買収(バイアウト)ファンドとベンチャーキャピタルファンドに関する中小企業庁の実態調査を参考に、概略をお伝えしました。
今回のコラムでは、バイアウトファンドに焦点を当て、より具体的な内容についてお伝えしたいと思います。
ウェブサイトPE Fund.jpのサイトを見ると、日本では現在80社程度のバイアウトファンドが活動していますが、これらのうち、約30社強が中堅企業や中小企業を対象とする投資を行っているものと考えられます。これら30社強のファンドの設立母体は様々であり、商社、メーカー、金融機関、政府系機関、M&A仲介会社、そして独立系といったところです。
投資先は、各社のホームページで掲載されているもので220件強となっている模様です。
投資スタイルについては、バイアウトファンドとして議決権のマジョリティを取得するケースが基本となりますが、中にはマイノリティ出資など議決権に拘らずに投資するケースもあります。
スタートアップ企業を対象とするベンチャーキャピタルファンドとも重なる部分ですが、レイターステージに位置するスタートアップ企業へのグロース投資というものも増加してきており、日本プライベート・エクイティ協会ホームページに掲載されているベイン・アンド・カンパニーの記事によれば、グロース投資のうち20~30億円程度の小規模出資となるディール件数が2015年以降は増加傾向を示しています。
また最近では、ファンド自体が買収によって企業の経営改善を直接リードするというよりも、対象企業の経営を任せられる優秀で意欲のある経営者人材の確保を行った上で投資を進めるという、いわゆる「サーチファンド」というスタイルも見られるようになりました。
2020年に設立された
サーチファンド・ジャパンが専業ファンドとして有名ですが、山口フィナンシャルホールディングスが設立した
山口キャピタルもサーチファンドの手法を導入しています。
中堅・中小企業を投資対象とするファンドについて、先のPE Fund.jpサイト上で投資先件数を確認すると10件以上の投資件数を有するファンドとしては、下記のような顔ぶれになっています。
- アント・キャピタル・パートナーズ:本コラム執筆時点で28件
- トライハード・インベストメンツ:同23件
- ACAグループ:同18件
- 日本グロース・キャピタル:同18件
- 日本プライベート・エクイティ:同12件
- MSD企業投資:同10件
このうち、
アント・キャピタル・パートナーズについて投資内容を見てみますと、投資先28件は2016年~2021年に投資が行われたものですが、今日までにそのうちの9件がイグジットされており、これらのイグジットまでの平均投資期間は3年3カ月程度となっています。
同社の場合、投資期間の長いものでは6年以上のものが1件、5年以上のものが1件、4年以上のものが4件ありますが、これらはいずれも投資中となっています。
また同社の場合、投資先の業種は多岐にわたっていますが、足元の投資先28件のうちで多いものは、情報通信5件、飲食4件、エレクトロニクス3件となっており、アパレル・雑貨、化粧品・美容、自動車・機械、食品・飲料、人材・教育が各2件ずつとなっています。
次に、2番目に件数の多かった
トライハード・インベストメンツについても投資内容を見ますと、投資先23件は2016年~2022年6月に投資が行われており、このうち3件がイグジットされていますが、それ以外は全て投資中となっており、先のアント・キャピタル・パートナーズと比較するとイグジット件数は少なくなっています。
しかし、イグジットされた3件の平均投資期間は2年3カ月程度となっており、これはアント・キャピタル・パートナーズと比較して1年程度短くなっています。
投資期間については6年以上が1件、5年以上が2件、4年以上が5件となっており、アント・キャピタル・パートナーズとほぼ同様の水準となっています。
投資先23件の業種については、建設不動産7件、アパレル・雑貨3件、エレクトロニクス3件、ヘルスケア・介護3件、飲食2件、それ以外では化粧品・美容、金融、自動車・機械、情報通信、人材教育が各1件ずつとなっており、アント・キャピタル・パートナーズと比較して特定業種への配分が多くなっている様です。
バイアウトファンドの場合、ファンドの運用期間を10年として、この中で投資から回収(イグジット)までの一連の工程を完了し、利回り15~20%程度で仕上げることが一般に期待されています。
どのファンドでも投資対象企業の価値向上を目指すという点では共通していますが、各ファンドによって所有するリソース、投資スタイルや投資内容など、それぞれに特徴が異なり、投資成果は異なったものとなります。投資対象が中堅・中所企業となる場合には大企業に比べて企業間の業績格差が大きくなる場合がありますからファンドにとってはまさに腕の見せ所と言えるかもしれません。
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