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COLUMN

2022.03.08M&A全般

独占交渉権とフィデュシャリー・アウト条項

  • M&A

執筆者:株式会社日税経営情報センター シニアマネージャー


M&A取引の条件交渉においては、売手企業と買手企業との間で常に利害が対立します。
売手企業はできるだけ高い価格での売却を望み、買手企業は当然にその逆です。
価格以外の条件でも両者の利益が相反する場面が多くあります。

こうした条件交渉の議論を続けていても互いの主張がぶつかり合うのみで平行線をたどることが多々あり、一旦合意した事項が後にどちらか一方に翻されることもあります。
そこで両者が一定の合意に至った段階でそれらの合意を固めることを目的として基本合意書を締結します。

基本合意書では主に以下の事項を定めます。
  • 譲渡(譲受)の対象企業(対象事業)
  • ストラクチャー(=売買手法。株式譲渡、事業譲渡、等)
  • 譲渡(譲受)価格(※通常、基本合意書段階では法的拘束力を持たせずデュー・ディリジェンス[買収監査。M&Aの現場では略してDDともいう]の結果修正される余地がある旨定める)
  • デュー・ディリジェンスに関する事項
  • 譲渡(譲受)後の取締役、従業員の処遇
  • 独占交渉権
  • 秘密保持
  • 今後のスケジュール
  • 法的拘束力の範囲
  • 契約の期限  等

これらの項目は全て重要かつほぼ不可欠ですが、中でも『譲渡(譲受)価格』『独占交渉権』は重要です。
“譲渡(譲受)価格はデュー・ディリジェンスの結果修正される余地がある旨定める”と述べましたが、これは最終条件交渉の段階で、デュー・ディリジェンスの過程で明らかになった事実に基づき、合理的な根拠をもって修正されるものであり、基本合意書で合意された価格に対して加減する、という点で非常に重要です。

独占交渉権は、買手候補企業がこれを取得できれば、一定期間その後の交渉を他の買手候補に邪魔されることなく進められるので当然に要求すべき権利ですが、売手企業はこれを買手候補企業に付与する際には十分な留意・検討が必要になります。

前置きが長くなりましたが、基本合意書に定める譲渡(譲受)価格について多くの説明は不要と思いますので、本稿では独占交渉権と、売手企業がそれに対抗するためのフィデュシャリー・アウト条項(FO条項)、さらに買手候補企業がFO条項に対抗するための違約金についてお話します。

独占交渉権(Exclusive Right)とはその名の通り、特定の買手候補企業1社が売手企業と独占的に当該M&Aの条件交渉を行うことができる権利です。
売手企業は買手候補企業1社にこれを付与してしまうと、権利の有効期間中はより良い条件提示をする他の買手候補企業との交渉に入れなくなります。
従って、売手企業が独占交渉権を付与する場合はその期間を短くするよう主張し、買手候補企業は逆の主張をします。
この期間はその後のデュー・ディリジェンス及び最終条件交渉に必要な時間を考慮し、通常2~3か月に設定され、売手企業が大企業やオペレーションが複雑な企業の場合はデュー・ディリジェンスに時間を要するため長めに設定されることもありますが、それでも6ヵ月を超えることはまずありません。
なぜならM&Aの交渉期間が長くなるにつれ売手企業の経営者の自社事業へのコミットメントが低下し、企業価値、事業価値の棄損に繋がるため、買手候補企業にとってもマイナスとなるためです。
従って、買手候補企業は独占交渉権を獲得しても油断せず可及的速やかにプロセスを進め、最終合意に達することが重要です。

ここまでのお話で、独占交渉権は買手候補企業のためのもので、売手企業には得が無いという印象を持たれたと思います。
そこで、売手企業は独占交渉権を付与した買手候補企業より良い条件を提示する他の買手候補企業が出てきた場合に、一定の条件の下で基本合意書上の義務から解放されることを定めるフィデュシャリー・アウト条項(FO条項)を求めることがあります。
フィデュシャリー・デューティという言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、これは善管注意義務のことで、株式会社の取締役は企業価値向上に資する他の売却機会を逃すような合意は取締役としての善管注意義務違反として株主から訴えられる恐れがあるため、独占交渉権を買手候補企業に与えるだけではなくFO条項を求めることがあるのです。

独占交渉権を付与する相手(買手候補企業)と売手企業にとって十分に好条件で基本合意を締結でき、他の買手候補企業が現れる可能性が低い場合は不要ですし、社長が1人株主の場合も不要です。

FO条項は基本合意書のみならず、最終契約書にも盛り込まれることもあります。
これは、最終契約書締結後、クロージング(資本取引完了)までにより良い条件提示がなされた場合の善管注意義務違反リスクを回避するためです。

FO条項は売手企業の取締役をリスクから守るための条項ですが、買手候補企業としてはそれまでのプロセスにかけた時間とコストが無駄になるリスクを負うことになります。
そこで買手候補企業が求めるのがブレークアップ・フィーと呼ばれる、いわゆる違約金です。

この違約金を売手企業が負担してしまうと、せっかく第二の買手候補からより良い条件提示を受けても手残り金額が減るだけではなく、違約金分の企業価値が減少することになります。
従って、売手企業はより良い条件提示をしてきた買手候補企業に、この違約金負担を含めた条件の再提示を求め、それと独占交渉権を付与した当初の買手候補企業の条件を比較し、最終判断をします。

売手企業にとって独占交渉権はデメリットがあるものの、買手候補企業とスムーズかつ友好的な交渉を進めるためには付与しておくべきですし、FO条項の要求は、これを発動すると手残り金額の減少につながるため、交渉の状況に応じて検討すべき事項と考えます。

独占交渉権の具体的内容、期間設定やFO条項の要求等を含め、M&A取引において締結される様々な契約条項については締結のタイミングや案件によって異なるため、経験豊富な弁護士やフィナンシャル・アドバイザーの意見を参考にすることが肝要です。




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