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COLUMN

2022.04.05M&A事例

事例研究:相続から始まるM&Aのケース

  • M&A

執筆者:株式会社日税経営情報センター シニアマネージャー



対象会社は、首都圏で鉄筋加工と工事を請け負っている会社で、大手ゼネコン支店の1次請けとして、3年前には売上3億円、営業利益2,000万円の業績を上げていました。しかし、業績のピークで創業社長が急逝し、社内から後継の社長が選ばれましたが、その後の業績は下降していました。
本件は、創業社長が急逝され、何らの準備もなく奥様が会社の所有権を承継することになり、このまま会社に係り続けるのは難しいと考えられ、株式の譲渡を希望されたケースです。

業績が下降した要因は、創業社長が亡くなられた後、社内から登用した社長が、創業社長の相続人で会社の株式を承継され所有権を持った奥様に遠慮して委縮し、新規の営業が停滞するということが起きたことでした。
その結果、新しい受注はなく、ほとんどの受注が創業社長のこれまでの関係先に偏ってしまい、他社の現場への応援で売上を作らざる得ない状況となっていました。そして、創業社長が亡くなられた2年後には、売上が1億円まで減少、営業利益200万円と大幅な減収減益の状態に陥りました。
大手ゼネコンの1次請けではありましたが、従業員15名と小規模で、大きな現場に数年間入ってしまうと次の仕事とのつなぎが出来ず、減収に拍車がかかっていました。
このような状況で、顧問税理士よりM&Aの相談がありました。

創業社長の奥様の本心は、創業社長が指名された後継の社長を中心に盛り立て、奥様が保有する株式も引き受けてもらいたいということでしたが、売上の減少も止まらず、このままでは会社の維持さえも難しいと考えられて第三者への譲渡を決意されたとのことでした。
ちなみに新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、M&Aを行った時点の売上は7,000万円まで減少し営業赤字という状態となっていました。

経営の見える化と株式価値の算定

私たちは、会社の現状を把握し、その後、業界内の情報や創業社長の奥様へのインタビューを通じて、内部環境と外部環境を把握し経営の見える化に努めました。その結果、大手ゼネコンの支店1次請けの取引口座には価値があり、何よりも加工場を持っていること、そこには日本に数台しかない大物の鉄筋加工機があるということが「強み」になるということがわかってきました。
そして、本来であれば、継続的な受注が見込めるはずの大手ゼネコンからの仕事が想定以上に低調なため、対象会社の売上が減少し始めていることがわかりました。
株式価値の算定は、その時点で売上が減少している中でも営業利益が確保されていたことから、類似会社比較法のEV/EBITDA倍率を適用して行いました。役員借入金はありましたが、銀行からの借り入れもなかったことから、純資産よりも高い価格が算定でき、創業社長の奥様も納得されて買手探しへと進みはじめました。


マッチング

経営の見える化と株式価値の算定を行った上で企業概要書を作成し、それと同時に地域内の同業大手に絞って買手候補を選定、アプローチを開始しました。
製造業であれば広域に買手候補を選定しますが、本件で地域を絞ったのは、鉄筋工事業が労働集約産業であり、仕事のための移動半径も限られ、仕事の大半が地域内に限られてもいたため、地域の会社でないと売上やコストのシナジーがないと考えたからです。
買収できるほどの地域内の同業大手は4~5社しかなく、薄氷を踏む思いでアプローチしました。そのうちの1社が、対象会社からほど近い場所の同業者を前年に買収しており、子会社との営業面のシナジーも期待でき、加工場を統合することで原材料の仕入れ、鉄筋加工のコスト削減が想定できるということで手を挙げてくれました。


両者面談

買手候補があらわれたところで対象会社の所有者である創業社長の奥様へ説明し、奥様から現在の社長に説明いただき、早々に両者面談を行いました。現在の社長も買手の会社に対して好意を抱いていたことから、両者の面談は順調に行きました。
しかし、対象会社の売上減少が続いていたこともあり、創業社長の奥様から売上回復が予定されているタイミングまで最終の判断を待ってほしいとの連絡があり、その後は保留としていました。このような状況で年明けの新型コロナ感染症が発生、受注の見込みが立たないこともあり、売上回復まで先延ばしの判断をしていた創業社長の奥様から急な電話がありました。

「とにかくM&Aの話をすぐに進めてほしい」とのことでした。

コロナ禍でもあり買手候補からは慎重なことも言われましたが、買手のリスクを最小化するスキームをつくり、何とか買手にも納得いただき、話は再び動きはじめました。


買収監査から成約へ

M&A価格は取引の直前まで業績が下落していたことから、最初に株式価値を算定したものよりも大きく下がりました。結果的に、創業社長の奥様の税金を考慮して、役員借入金の完済、役員退職慰労金の上乗せを行い、株式の譲渡対価は簿価として成約しました。
役員借入金は銀行からの借り入れに転換、手許資金から役員退職金を支給することで、買手の持ち出しを最小限にしたことが成約につながりました。

買手の社長からは、
「亡くなった創業社長の奥さんの存在もあってこれまでは社長が委縮していたが、前向きな社長でもあり、加工場の統合によるコスト削減効果も望めるので、よいM&Aになった、感謝している」との発言をいただきました。


業績が低下していても、売上が1億円以下であっても、見えない資産を評価してくれる買手はいます。
小さい会社の場合は、多くが同業者の中での再編になると思います。
ただ、業界が冷え込んだりすると買手探しに苦戦することもありますが、同業者で経営力のある大手は、地域内でのシェア拡大を志向しており、買収の意欲は旺盛です。
あきらめなければ、チャンスはあります。






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