本コラムでは、当社の経験豊富なシニアマネージャーが執筆しております。この情報が関与先様へのアドバイスの一助となれば幸いです。
PMI(Post Merger Integration)とは、M&A後に企業の価値創造を実現するための取り組みです。M&Aを利用する企業が増加し、今や大企業のみならず、中堅企業や中小企業においても利用されるようになっています。
特に買手側企業の場合には、その後もM&Aでの買収を繰り返すこともあり、経営戦略にとってM&Aが大変重要な位置づけになっています。
ここで重要なことですが、M&Aはゴールではないということです。
M&Aに期待する効果としては、規模の拡大、コスト競争力、事業の多角化、技術の進化など様々な側面がありますが、要するに買収企業と被買収企業の経営資源の有効活用を通じた価値創造にあると言えます。
M&Aをゴールとして錯覚し、その後のプロセスを誤ってしまうと、M&A成立時における単純な数値の足し合わせになってしまい、その後の価値創造が十分になされないということです。企業を成功に導くためにはM&A後に相応の取り組みが求められるのです。
今回のコラムでは、このPMIをテーマとして取り上げます。
まず、興味深い調査結果をご紹介します。これはデロイトトーマツコンサルティング株式会社(以下「DTC社」)がM&Aを経験した国内企業1,500社を対象として2013年に実施したアンケートによる実態調査結果(有効回答数224社)です。
M&Aにおける成功の基準を当初目標に対する達成度80%超として見なす企業の割合が回答の83%となっており、殆どの企業は同じ様な成功のイメージを持っているのですが、実施したM&Aにおいて、この80%を達成できたと評価している企業の割合は36%、達成度40%以下とする企業の割合が16%、残り48%の企業は達成度40%超80%以下という結果が示されています。
同様の実態調査は同社によって2010年にも実施されていますが、この時には80%超の達成度(成功)として回答した企業の割合は28%、逆に達成度40%以下として評価した企業の割合が26%となっており、2013年の調査結果は2010年から幾分改善している様子ではありますが、実施したM&Aを成功として評価している企業は決して多いとは言えません。
多くの企業がM&A実施後においても何らかの問題を引き摺っているとも考えられ、M&Aにおいて期待した効果を享受することは簡単なこととは言えないようです。
M&Aによる統合プロセスをM&Aを実施する以前の段階と以後の段階とに分けて考えてみると、まずM&A実施以前の段階としては、そもそも買収対象とする企業や進出対象とする市場の選定が正しいか否かという問題があります。
この点については事前段階での市場環境分析、ポジショニング分析、デューデリジェンス等が如何に大切かということでもありますが、この段階に問題がない場合には、M&A実施以後の統合プロセスが問われることになります。
M&A実施後の統合プロセスにおいて、重要な観点は大まかに、(1)経営者の姿勢やビジョン、(2)組織体制とガバナンス、(3)業務プロセス、(4)人事制度、(5)企業風土、等が挙げられます。
ここで重要なことは、M&A実施後にこれらの統合プロセスを速やかに進めていくためには、M&A実施以前からの十分な議論と統合シナリオの構築といった事が欠かせないということです。統合プロセスには十分な備えが必要なのです。
この統合に向けた準備は、M&A交渉過程において始まると言っても過言ではなく、イメージとしては、基本合意契約の締結とともにデューデリジェンスと並行して開始するという具合です。
そしてM&A実施後は速やかに統合プロセスを実行していきますが、統合プランには中長期的なものと短期的なものがあり、短期プランについては100日プランとも呼ばれ、M&A実施後100日で完了するような時間軸で実行します。
また、短期プランと中長期プランとは整合的でなければなりませんから、中長期プランに至る途中評価も重要です。この途中評価の設定時期については、DTC社の2007年調査では、M&A後の初回の評価タイミングを1年後までに実施するという企業の割合が成功企業では70%となるのに対して非成功企業では55%となっており、また3年後から5年後に評価する企業の割合では成功企業では17%に対して非成功企業では45%となっています。
つまり、成功企業は非成功企業に比べて評価を早く行い、問題の把握、修正を迅速に行っていると言えるのではないでしょうか。M&A後のスピード感が大切ということになります。
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