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COLUMN

2021.08.03M&A全般

≪M&A道2丁目≫中小企業M&Aにおける5W1Hとは?―⑨

  • M&A


本コラムは、M&Aキャリア25年超の当社のシニアマネージャーが執筆しております。この情報が関与先様へのアドバイスの一助となれば幸いです。



前回のつづきをお送りいたします。

↓前回分はこちら↓
 ■≪M&A道2丁目≫中小企業M&Aにおける5W1Hとは?―⑧


5. 買手企業経営者にとっての『5W1H』とは?

買主にとっての『5W1H』とは、具体的に述べますと以下のとおりです。売主側で記載した事項は省略することとし、買主の目線でみて固有の論点だけを取り上げることとします。
なお、このコラムでは、売手側と買手側の視座の両方を併記する形をとっておりますが、それは、常にどちらの立場からでも物事を捉えることができれば、案件の全体像を俯瞰できるからに他なりません。どうか、その点を踏まえてお読みください。


①『When(いつ)?』

買収を検討する企業において、『When(いつ)?』とはどのようなものでしょうか。
それは買手企業における買収計画時期のことを指します。すなわち、事業戦略上M&Aのシナジー効果(相乗効果)が有効に働くと考える事業計画上の買収時期の問題です。

買手企業が買収計画時期を定める際には、「M&A在りき」で事業戦略を組み立ていないかどうか。M&Aの実行時期について計画立案する場合には、まず「事業戦略在りき」で考えることが重要な論点となります。
「事業戦略在りき」で考えていかなければ、仮に、M&Aアドバイザーから売り案件を持ち込まれるようなことがあっても買収基準を明確化できないため、検討のために必要以上に多くの時間を費やすことになりかねません。
買収計画時期を組み立てる際に、まず、「事業戦略在りき」でなければならない理由はこの点にあります。

M&Aは、事業戦略を実現するための有力な手段のひとつになり得ます。
日本国内において多くのM&Aが実行されている昨今では、M&Aは事業戦略実現手段の有力な候補になり得るものといえます。これをデータでみてみましょう。
レコフデータ社の調べによると、1996年から2020年の国内企業が絡んだM&Aの件数推移をみると、買手企業にとってM&Aのビジネスチャンスが各段に広がっていることが明らかとなります。

レコフデータ社の公表データによると、1996年の国内M&A件数は662件でした。2020年では3,866件までに6倍近く増加しています(注1)。
このデータは、買手企業が公開会社などの大手企業や中堅企業などがメインであり、中小企業や小規模事業者も含めたM&A件数は、レコフデータ社が公表している件数よりもかなり裾野が広いことが推察されます。

こうした日本国内におけるM&Aの広がりから、買手企業が自社の事業戦略実現のための有力な手段としてM&Aを積極的に活用しているのではないかと推察されます。
しかし、残念ながら、日本国内においてM&Aの売り買い市場というような共通のプラットフォームはまだ未成熟な状態にあると言わざるを得ません。
実際には、銀行、証券会社などの金融機関や独立系のM&A仲介機関、経営コンサルティング会社などが保有する売り買い情報を個々にマッチングさせて成り立っています(注2)。
そのため、強いM&A買いニーズがあり、積極的にM&Aに取り組みたいと考える企業の多くは、取引金融機関やM&A仲介機関、経営コンサルティング会社などに買いニーズをエントリーしています。
それでも、そうした買いニーズ全てにて応え切れていないことが政府でも問題視され始めています(注3)。それは、圧倒的多数の買いニーズに対し顕在化している売りニーズの数自体が少ないためです。

大手M&Aの仲介機関であるストライク社長である荒井邦彦氏のコメントによれば、「中小企業のM&A市場は買手が9割、売手が1割」といいます(注4)。
中小企業庁によれば、2025年までに中小企業の経営者のうち約245万人が社長の平均退任年齢とされている70歳を迎え、そのうちの51%である127万人の後継者が決まっていないことを指摘しています。
中小企業では、この127万人うち60万人について、今後10年間のうちに年間6万人のペースで第三者承継問題を解決していこうという方針です。

潜在的な売りニーズを抱えた経営者数は想像を絶するほど多いといえます。国内にどれほどのM&Aアドバイザーが育成されているのか、統計データがないため不明ですが、とても既存のアドバイザーだけでは応じきれないくらいのM&A売りニーズがあるのではないかと推察されます。
M&A実行時期を確実なものとするための今後の課題は、こうした売りの潜在ニーズと本気度合いの高い買いニーズを如何に効率よくマッチングさせるかという点にあります。
そのため、積極的にM&Aを取り込んでいきたいと考える買手企業は、顧問税理士先生はじめM&Aアドバイザーに対し買いニーズがあることをアピールし続ける必要があります。
そうすることにより、税理士先生はじめM&Aアドバイザーにも買手企業のニーズ内容は理解してもらえます。そのM&Aマッチングのための人的ネットワークを確実にひろげていくことで案件持ち込みチャンスは増えます。

とはいえ、M&Aのマッチングは、税理士先生やM&Aアドバイザーの情報網と業務経験などの属人的なコンピテンシーに依存している面があります。そのため、M&Aを前向きに考えながらも、M&A以外の戦略的代替案を用意しておく必要もあります。

M&Aという手段の実現可能性を高めるための選択肢が多ければ、M&Aアドバイザーからの案件持ち込みの可能性を広げることに繋がります。
M&A実行時期の実現可能性を高めるための方策とは、例えば、M&Aアドバイザーが具体的に活動しやすいようにターゲットを明確にしておくことです。
M&Aアドバイザーへのオーダーが明確であればあるほど、M&Aの実行時期は早まります。ここでいうM&Aアドバイザーへの明確なオーダーとは、買手企業にとっての『5W1H』のことです。
この『5W1H』については、漠然としたもので終わらせることなく、突き詰めておくほどに磨き上げておく必要があるように思われます。より具体的な話に落とし込め、ターゲットを絞り込めることができれば、M&A実行計画の時期は一層確実なものとなります。

以上のように、『When(いつ)?』というM&A実行計画時期を定めることは、買手企業のM&A戦略を立案するうえでのはじめの一歩といえます。



 ・・・つづきは次回、『≪M&A道2丁目≫中小企業M&Aにおける5W1Hとは?―⑩』でお送りいたします。


注 釈

(注1)出典は、レコフデータ「M&A件数の推移」。

(注2)最近では、M&Aのプラットフォーマーと呼ばれる、小規模事業者のM&A売り買い情報のマッチングを主なビジネスとした中小M&Aの仲介機関の動きも活発化しています。

(注3)参考文献として、経済産業省中小企業庁HP「第三者承継支援総合パッケージ」(令和元年12月20日公表)及び「中小M&Aガイドライン」(令和2年3月31日公表)

(注4)出典は、2020年4月22日付日本経済新聞12面(企業1)「事業承継 M&Aの決断③」。






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