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COLUMN

2021.05.06税務コンサルのポイント

【事業承継税制(特例)】民法特例活用時の実務上の留意事項・現場での所感―②

  • 富裕層コンサルのイロハ
  • 事業承継税制(特例)

前回のつづきです。
↓前回分はこちら↓
■【事業承継税制(特例)】民法特例活用時の実務上の留意事項・現場での所感―①

合意書の内容を見てみると

(除外合意、固定合意−法4条1項1号及び2号)

第3条 B、C及びDは、BがAからの平成○○年○○月○○日付け贈与により取得したY社の株式○○株について、次のとおり合意する。

①(除外合意)上記○○株うち□□株について、Aを被相続人とする相続に際し、その相続開始時の価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しない。

②(固定合意)上記○○株うち△△株について、Aを被相続人とする相続に際し、遺留分を算定するための財産の価額に算入すべき価額を○○○○円(1株あたり☆☆☆円。弁護士××××が相当な価額として証明をしたもの。)とする。


とあるため、一見、固定合意ではなく除外合意の場合は自社株の評価額が経営に参画しない他の相続人に分からないとも思われますが、

(後継者以外の推定相続人がとることができる措置−法4条3項)

第4条 Bが第3条の合意の対象とした株式を処分したときは、C及びDは、Bに対し、それぞれ、Bが処分した株式数に○○○万円を乗じて得た金額を請求できるものとする。

2 BがAの生存中にY社の代表取締役を退任したときは、C及びDは、Bに対し、それぞれ○○○万円を請求できるものとする。

3 前2項のいずれかに該当したときは、C及びDは、共同して、本件合意を解除することができる。

4 前項の規定により本件合意が解除されたときであっても、第1項又は第2項の金員の請求を妨げない。


とあるように、他の相続人は「おおよその」相続財産は把握できます。
当該条項はマニュアルによると、

 「旧代表者の推定相続人及び後継者は、第1項の規定による合意をする際に、併せて、その全員の合意をもって、書面により、次に掲げる場合に当該後継者以外の推定相続人がとることができる措置に関する定めをしなければならない。

一 当該後継者が第1項の規定による合意の対象とした株式等を処分する行為をした場合

二 旧代表者の生存中に当該後継者が当該特例中小企業者の代表者として経営に従事しなくなった場合」


 除外合意や固定合意をした後、後継者が当該合意の対象とした株式等を処分したり、特例中小企業者の代表者を退任したりした場合には、当該合意は、本来の趣旨に沿わなくなるということができます。
 しかしながら、こうした場合に当該合意の効力が当然に消滅することとすると、当該合意の対象とした株式等の価値が下落し、当該合意があることによってむしろ不利益を受けると判断した後継者が当該株式等を処分するなどして、容易に当該合意の効力を消滅させることができることになり、当事者間の衡平上問題があると考えられます。
 そこで、法第4条第3項は、予め旧代表者の推定相続人及び後継者間で協議をし、後継者が株式等を処分した場合などに非後継者がとることができる措置を定めるべきことを規定しています。
 その具体的な内容については、法は、特段の基準を設けておらず、当事者間の協議により、個別具体的な状況に応じて定めることができます。具体的には、次のような定めをすることが想定されますが、後継者の経営の自由度を高めるため、後継者が株式等を処分しても非後継者は何ら異議を述べず、一切の金銭を請求しない旨を定めることもできます。

・非後継者は、他の非後継者と共同して当該合意を解除することができる。

・非後継者は、後継者に対し、一定額の金銭の支払を請求することができる。


とある通り必須の記載事項と考えられるため、当該条項を削除して、合意書作成をするのは不可能です。将来、係争に発展する可能性もあります。

したがって、上記諸事情によりどうしても民法特例が利用できないといった場合には

①税務上不利だが、生前に金庫株し、株式現金化資金を推定被相続人に予めプールしておく

②相続開始後、相続金庫株の実施、代償交付金の原資を確保

③各種生命保険加入

といった従来型の資金確保についてシミュレーションする必要性があります。
なお、民法上の時価(当事者間合意価格)については拙著『みなし贈与のすべて』(ロギカ書房)をご参照ください。


※コラムに関するご質問は受付しておりません。予めご了承ください。



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伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。