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COLUMN

2020.07.02税務コンサルのポイント

その他のみなし贈与が生じる諸論点―①

  • 富裕層コンサルのイロハ
  • みなし贈与


今回からは、その他みなし贈与が生じる可能性がある諸論点について取り上げていきます。

1 その他のみなし贈与が生じる可能性がある諸論点

(1) 民法組合、LLP、投資事業有限責任組合(LPS)等
 これらの組合員の組合事業に係る利益の額又は損失の額は、その民法組合等の利益の額又は損失の額のうち分配割合に応じて利益の配分を受けるべき金額又は損失を負担すべき金額とするとされています(所基通36、37共―19)。
 しかし、組合員間の利益移転、資産移転を目的とする契約等、単に特定の組合員の税負担軽減を目的としているとみなされた場合は当然ながらみなし贈与の対象になると想定されます。
 税理士法人等士業法人や一定の医療法人についてもみなし贈与発動可能性があることは「属人株による利益移転」で先述した通りです。

(2) 中小企業のMEBOの手法におけるみなし贈与発動可能性
 中小企業のMEBO の基本的な手法は

(STEP1)後継者(役員、従業員)による持株会社設立

(STEP2) 現オーナーを含む本体会社の株主が(STEP1)で設立された持株会社に株式を売却(持株会社の買収金額は外部調達が通常)

(STEP3)(STEP1)の持株会社と本体会社を合併

です。
 このとき、(STEP2)における売却価格は所得税基本通達59-6となります。
 これにより算定された株価は相続税評価額より割高になることが往々にしてあります。仮に所得税基本通達59-6を使用せず、相続税評価額を使って算定した株価で譲渡が行われた場合、その乖離が大きければ、低額譲渡に該当するかもしれません。
 低額譲渡の判断基準は該当ページを参照していただくとして、仮に低額譲渡認定された場合
 ・オーナー:時価によるみなし譲渡所得課税
 ・持株会社:時価による株式取得
 ・従業員:時価による株式取得
   ここで相続税法9 条みなし贈与が生じる可能性あり
 従業員については、同族関係はありませんので、相続税基本通達9-2 のみなし贈与の対象にならないように思えますが、当該通達では、贈与・通達の関係者が同族関係者であることを要求しておりません。
 金額が大きくなることが予想される場合、株主1人当たりのみなし贈与額が非課税枠110万円以下にするよう留意が必要です。

(3) 医療法人の事業承継
 下記は持分あり医療法人と持分なし医療法人の合併に限定されます。
 譲渡側の医療法人の社員の税務上の取扱いとして、対価の代わりに持分の払戻しを受けて退社し、改めて存続法人に入社することも可能です。
 しかし、この場合、みなし配当課税が生じる恐れもあります。
 また、持分を放棄してしまった場合、残存社員に対して、また医療法人に対して、みなし贈与の課税関係が生じる可能性があります。

(4) 事業承継ストックオプションのみなし贈与
 事例で考えてみます(注1)。
①会社設立時

発行済株式500株、1株発行価額2,000円、資本金1,000,000円をオーナーが払込み。

②設立直後に新株予約権を付与

口数500口、権利行使により取得できる株式500株、発行価額1口200円、権利行使価額1口2,000円、権利行使者は後継者。

③5年後のB/S

内部留保は1,000,000円

④権利行使

結果として2,000,000円の企業価値ある会社の50%価値分をオーナー、50%価値分を後継者が取得。

 この価値移転分については新株予約権の発行価額200円が公正な発行価格であったという保証がなく、贈与税課税すべきという意見もあります。
 この手法は主に大手税理士法人を中心に行われてきた方法ですが安直な利用は上記のようにみなし贈与の発動可能性があるため避けるべきと考えます。
 なお、非上場株式等における公正な発行価格は「わかりません」。その時点の時価の10~20%に実務上、設定する例が多いようですが、これも危険です。
 複数の企業価値評価専門コンサルティング会社から鑑定書を取ることをお勧めします。





(注釈)

(注1)税理士法人山田&パートナーズ、優成監査法人、山田ビジネスコンサルティング会社編著者「新株予約権の税・会計・法律の実務Q&A第7 版」中央経済社(2017年)35頁~40頁参照








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伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。