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COLUMN

2020.10.13M&A全般

≪M&A道1丁目≫投資ファンドの新しい動きと中小企業M&Aの行方―⑤

  • M&A

本コラムは、M&Aキャリア25年超の当社のシニアマネージャーが執筆しております。この情報が関与先様へのアドバイスの一助となれば幸いです。



前回のつづきをお送りいたします。

↓前回分はこちら↓
 ■≪M&A道1丁目≫投資ファンドの新しい動きと中小企業M&Aの行方―④


8. 投資ファンドの活用方法

それでは、事業承継問題や自主廃業を迫られる中堅中小企業のオーナー経営者はいったいどのような場合に上述のような投資ファンドの活用を前向きに検討していけばよいのでしょうか。

第一に、ある特定の企業傘下に入ることにより、会社に色がつくことをオーナー経営者が嫌がるようなケースが想定されます。
会社に色がついてしまう結果、その買手となる親会社をはじめ特定の取引先との関係親密化により、他の既存取引先との取引関係継続が難しくなり、当該会社の企業価値が棄損するようなケースが当てはまるものと思われます。

また、同業他社への事業承継を行う結果、買手候補先企業の下請け会社となり、従業員のモチベーションなどを踏まえて考えると望ましくない場合も該当するものと思われます。

さらに、独自の経営理念や企業文化、企業風土を生かすことが企業価値向上を維持するうえで不可欠と考えられる場合もあります。売却対象会社特有の企業風土が買手企業の企業風土にがらりと変わる場合に、良い方向に向く場合もあれば悪い方向に向く場合もあるように思われます。

良い方向に向く場合とは対象会社の経営状態が悪化しているなど、経営改革等が必要な場合だといえます。
悪い方向に向く場合とは、対象会社の経営理念や企業風土が優れた経営者の理念のもと、事業体としてうまく運営されている場合ではないかと思われます。
新しい企業風土になじめないような場合には対象会社の経営が悪化しかねません。

特定の買手企業体となる場合には、良い意味でも悪い意味でも売却対象会社の企業風土を譲渡前のまま維持することは現実的には難しいだろうと思われます。その点、投資ファンドを買収の受け皿とした場合には独自の企業風土をそのまま残すことが可能といえるでしょう。

上述のほかにも、M&Aの仲介機関を通じて買手候補先探しを行ったものの、結局、買手候補先企業を見つけることができなかったような場合にも有効といえるでしょう。

しかしながら、考えておかなければならない点もあります。
それは、投資ファンドを買手とした場合には、投資ファンドの買収目的が投資リターンにあるため、最終的には出口(EXIT)戦略を実行しなければならない点であります。すなわち、一定の投資運用期間を経て企業価値を高め、さらに第三者に売却するか、もしくは株式公開(IPO)することで投資資金を回収し、投資家に対して利益還元しなければならないという点であります。

自己投資(プリンシパル投資)(注1)であれば話は別ですが、最終的にまた売却対象として買手候補先探しをしなければならないのであれば、売主となるオーナー経営者はその点は踏まえておかなければなりません。

しかしながら、このような投資ファンドの特徴を前向きに活用することができるとすれば、それはオーナー経営者が直に特定の買手候補先に売却を図ることをよしとはできない場合だろうと思われます。まず社内外に第三者への事業承継問題をメッセージとして浸透させ、徐々に第三者承継へのステップを踏んだうえで、そのブリッジとして投資ファンドを活用する場合が中小企業M&Aでは考えられます。

それは、いったん投資ファンド(投資事業有限責任組合)を受け皿として創業者利潤を実現させ、銀行借入の債務保証負担からオーナー経営者が解放されることは、売主となるオーナー経営者にとっては大きな問題解決手段となりうるものだからです。

売主のそうしたニーズを実現させることと同時に事業承継問題を解決できない場合には、投資ファンドは有効な売却手段となるでしょう。
事業承継をさらに投資ファンドが100%株主となったうえでハンズオン(hands-on)(注2)することで数年かけて最適化させることを目指せば、第三者承継を円滑に進められる可能性が広がります。
上述の場合が前提ならば、売主であるオーナー経営者にとって投資ファンドを買手候補先として選定する意義は大きいものと思われます。但し、投資ファンドの運用期間中にオーナー経営者が引退できない場合もあり得るため予め注意しておく必要があります。



 ・・・つづきは次回、『≪M&A道1丁目≫投資ファンドの新しい動きと中小企業M&Aの行方―⑥』でお送りいたします。



(注釈)

(注1)「プリンシパル投資(principal investment)」とは、「自己資金による投資のことを指し、M&Aや不動産への投資に際して使われる手法。対するものとしては、外部からの資金を集めて投資を行うファンドがある。ファンドの場合には投資期間が限られているために短期間で投資の成果を得ようとする傾向が強い。しかしプリンシパルインベストメントでは外部からの圧力を感じることなく、投資先に応じた投資期間や投資額の決定が可能となる。そこで、中・長期的に高い投資収益を得ようとすることがプリンシパルインベストメントの特徴となっている。」というものです。(出典)「マネー辞典m-Words」ホームページ(http://m-words.jp/w/プリンシパルインベストメント.html2020年4月29日閲覧)

(注2)「ハンズオン」とは、「企業買収や投資を行う際に、その後にどのくらいマネジメントに関与するかを表現する言葉。自ら社長や社外取締役などを派遣し、経営に深く関与するスタイルが「ハンズオン」、逆に買収先・投資先のマネジメントに任せるのが「ハンズオフ」である。」。(出典)「グロービス経営大学院」ホームページ「MBA用語集」(https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-11927.html2020年4月29日閲覧)








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