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COLUMN

2020.05.19M&A全般

<特別号>2020年のスモールМ&Aの動向について―①

  • M&A


本コラムは、当社のM&Aキャリア25年超のシニアマネージャーが執筆しております。この情報が関与先様へのアドバイスの一助となれば幸いです。



日本経済は、いま、新型コロナウイルスの感染拡大により、さまざまな業種にわたり大きな影響を受けています。とりわけ、飲食業、観光業への影響は甚大と言われているものの、いまや全産業にわたっているといえるでしょう。
改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく「緊急事態宣言」が本年4月7日に発出されて以来、政府や地方自治体などによる助成金や家賃補助などの資金支援策が開始されました。
その後、政府は14日緊急事態宣言を39県で解除すると決定しました。ひとの往来や生産が徐々に戻りつつあるようですが、コロナショックによる日本経済への悪影響はまだまだ先行きが見通せないように思われます。グローバル・サプライチェーンの分断により、どの産業においてもグローバルにその影響のすそ野を中小企業にまで広げています。

中小企業の経営者の悩みは、とりわけ深刻です。新型コロナウイルスの感染拡大は沈静化しつつありますが、第二波の到来も心配されています。また、コロナの影響はかなり長期化することが懸念されています。

経済産業省は、昨年12月20日に「第三者承継支援総合パッケージ」を発出しました。これは、後継者不在の中小企業に対して、第三者による事業承継(М&A)を総合的に支援するためのものです。経済産業省では、事業承継を促進するため、これまで法人・個人ともに、承継の税負担を実質ゼロにする「事業承継税制」などの支援策を講じてきました。ただ、後継者未定の中小企業については、これまでの対策では不十分な点があったため、今般、黒字廃業の可能性のある中小企業(注1)の技術・雇用などの経営資源を次世代の意欲ある経営者に承継・集約することを目的に、「第三者承継支援総合パッケージ」を取りまとめたものです。
このパッケージのもとで官民の支援機関などが一体となって、今後、年間約6万者、10年間で約60万者の第三者承継の実現を目指していくとしています(注2)。

経済産業省や財務省などによるこうした中小企業向け第三者承継支援策も、コロナ禍により大きな壁に阻まれたとの見方もあるかもしれません。しかし、一方では産業構造の大変革が起こる可能性も指摘されており、今後、一気呵成に日本の産業界も構造変革が起きるのではないかとの指摘もあります。
レコフデータの調査によれば、2019年の年間のМ&A件数は4,088件と前年比で6.2%増となり、2012年以来8年連続の増加で、過去最高を更新したと公表しています(注3)。IN-IN案件(注4)は、ベンチャー企業案件や事業承継案件が増えたことが背景にあり増加したと分析しています。また、投資ファンド案件も件数では過去最多となったと報告しています。1985年からのマーケット別(IN-IN案件、IN-OUT案件、OUT-IN案件)トレンドは【図表1】のとおりです。

▼【図表1】1985年以降のマーケット別М&A件数の推移

(出典)レコフデータホームページ(https://www.marr.jp/genre/graphdemiru)2020年5月15日閲覧


2020年のМ&Aマーケットの動向はどうなっていくのでしょうか。新型コロナウイルスの影響がなければ、引き続きベンチャー企業案件や事業承継案件にも支えられて国内外の案件数は増加の一途をたどるのではないかとの見方もされていました。
新型コロナウイルスの影響はもはや無視できない状況にあり、М&Aの件数増加は見込みにくい状況がしばらく続くかもしれません。しかし、一方では、救済型や事業承継型の案件が急増するかもしれません。現時点では、2020年のМ&Aの動向を精度高く予測することは難しい状況にあるように思われます。
グローバル企業等の大型案件については、買収価額等について協議中のものや基本合意しているものについて大幅な株価下落により条件の見直しや取りやめの判断を余儀なくされた案件も公表されています。

一方、中小企業案件はどうでしょうか。
М&Aの進行中の案件においては、コロナ禍の余波を受けています。これまでフィナンシャル・アドバイザー(FA)を通じた売り手、買い手間の面談による交渉協議や弁護士、公認会計士、税理士などの専門家によるデュー・デリジェンス(DD:買収監査)実施についても、「3密」防止の観点から、スムーズに実施することが困難となっていることは否めません。
しかし、根強い買いニーズ先にとっては、積極果敢に攻めるビジネスチャンスであるとも言えるでしょう。
筆者は、日本の産業界を支える中小企業の第三者承継については、コロナ禍を起点として急速に進展していくのではないかと考えます。
М&A案件規模の推移は小型化の流れは変わらないと予測しています。中小企業にかかる事業承継型のМ&A案件は、コロナ禍にあっても政府の資金支援策の後押しも手伝って、増えていくものと考えています。

2020年度の中小企業白書によれば、「経営者の高齢化や後継者不足を背景に、年間4万者以上の企業が休廃業・解散しているが、このうち、約6割は黒字企業。培ってきた技術や従業員などといった中小企業の貴重な経営資源を、次世代の意欲ある経営者に引き継いでいくことが重要。」との指摘 もあります。売り案件化するペースは、これまで以上に増加すると予想できるのではないでしょうか。

後継者難により休業や自主廃業を迫られる中小企業経営者は増えており、そうした経営者にとっては、待ったなしの状況にあると言えます。もし、コロナ禍により、第三者承継の機会を阻まれるような事態が続くようであれば、売却対象企業の経営者はもとより、その株主、従業員、取引先、債権銀行や地域経済などの利害関係人(ステークホルダー)にとって大きな損失を被ることになります。これは、買手企業にとっても同様です。政府が目標とする第三者への円滑な事業承継がうまくいかずに、最終的には、日本経済の今後の発展にとっても大きな損失となることは否めません。
直近の政府支援策による制度面での後押しも手伝って、官民一体となって、このМ&A市場における難局もプラスに転じていくことができるのではないかと考えています。


・・・次回は、税理士の先生方に向けて、事業承継型M&Aへの対応に関するポイントなどについて述べます。


(注釈)

(注1)経済産業省ホームページ2019年12月20日付「第三者承継支援総合パッケージ」5頁によれば、中小企業の黒字廃業の比率は49.1%と指摘しています(2020年4月6日閲覧)。
(注2)経済産業省ホームページ2019年12月20日付「第三者承継支援総合パッケージ」5頁(2020年4月6日閲覧)。政府では、2025年までに、70歳以上となる後継者未定の中小企業約127万者のうち、黒字廃業の可能性のある約60万者の第三者承継を促すことを目標としています。
(注3)レコフデータ「NEWS RELEASE2019年1-12月の日本企業のМ&A動向」(2020年1月6日)
(注4)IN-IN案件とは、国内企業同士のМ&A案件のことをいいます。なお、IN-OUT案件は国内企業による海外企業のМ&A案件のことをいい、OUT-IN案件とは海外企業による国内企業のМ&A案件のことをいいます。






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