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COLUMN

2023.01.05税務コンサルのポイント

【事業承継スキーム】従業員持株会・役員持株会の留意点

  • 富裕層コンサルのイロハ
  • 事業承継スキーム

執筆者:伊藤俊一 先生
※伊藤先生のプロフィール詳細は、本ページの最後にてご確認いただけます。


Q. 従業員持株会・役員持株会の留意点

類書ではおなじみの持株会スキームについて言及がなされておりません。留意点をご教示ください。


Answer

従来、一世風靡した感のある持株会スキームですが、私見では反対です。
かつて相続対策として組成された持株会は現在、そのほとんどが幽霊持株会になっており、それを解消する動きの方が現場のコンサルティングでは多くなってきています。

【解説】
幽霊持株会になったため、オーナーが自社株を保有せざるを得なくなった結果予期せぬ課税関係が生じてしまった、下記の裁判例を参照してください。
仙台地裁平成3年11月12日判決は、従業員株式を代表者が買い戻した際に、相続税評価額原則評価が適用された事例です。

当該会社は従業員持株会制度を設けて従業員に対して1株50円の旧額面価格で譲渡し、退職に際しては同額で当該会社に売り渡す旨を約束されていました。退職従業員所有株式については、他に譲渡する従業員を選定するまで一時的に代表者が所有していました。この場合における代表者の買取価格は旧額面価格であり、その後3年に渡り配当を受け取っていました。
原告(納税者)は、次の株式保有者が決定するまでの一時的な所有であることを主張したものの認められず、評価額と旧額面価格との差額についてみなし贈与課税が適用されたという事例です。一時的な所有の主張が認められなかった理由は、「3年間も所有して、配当受領までしていた」という既成事実があったからです。
近年は、“幽霊”従業員持株会(本来の従業員持株会としての機能が停止しているような持株会のことを言います)が増えており、代表者が仕方なく持っているという例は非常に多いと思われます。

仙台地裁昭和59年(行ウ)第7号贈与税決定処分等取消請求事件(棄却)(確定)【税務訴訟資料第187号64頁】

相続税法7条(贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合……低額譲渡)にいう時価とは、当該財産が不特定多数人間で自由な取引がなされた場合に通常成立すると認められる価額、すなわち当該財産の客観的交換価値を示す価額をいうとされた事例
相続税財産評価に関する基本通達が、いわゆる類似業種比準方式において、70パーセントの安全率を設けていることをもって、右方式を不当ということはできないとされた事例
相続税財産評価に関する基本通達が、いわゆる純資産価額方式において、同族株主であるか否かにより異なる評価方法をとることとしていることは、経済的実質に応じて税負担を求めるものであり、公平の原則に反するものではない、とされた事例
相続税法7条は、相続税の租税回避行為に対する課税を目的としたものであり、そのような意図を持たない本件には適用がない旨の納税者の主張が、同条は著しく低い対価によつて財産の取得が行われた場合の実質的贈与に着目して、税負担の公平の見地から贈与とみなす趣旨の規定であり、当事者の具体的な意図、目的を問わずに適用されるとして、排斥された事例
本件株式の取得は、従業員持株制度による売戻条件の履行として約定どおりの価額( 1 株50円)で譲り受けたもので、その売買価額も当事者間の自由意思による正常な取引価額であるから、「著しく低い価額の対価」による取得には当たらない旨の納税者の主張が、本件株式には譲渡制限等があったことから、経済原理的には、価額形成についていえば、株式の評価にあたって優先的に評価されるべき売買取引には当たらないとして、排斥された事例
評価通達により本件株式を非上場株式として評価して行われた本件処分は、同株式についての取引の実情、沿革、売買事例等に基づく価額を無視し、恣意的に時価を定めて、相続税法7条、22条等を適用するもので、憲法84条に違反し、無効であるとの納税者の主張が排斥された事例



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伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。