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COLUMN

2022.12.15税務コンサルのポイント

【事業承継スキーム】残余財産分配以前の子会社株式評価損計上の可否

  • 富裕層コンサルのイロハ
  • 事業承継スキーム

執筆者:伊藤俊一 先生
※伊藤先生のプロフィール詳細は、本ページの最後にてご確認いただけます。


Q. 残余財産分配以前の子会社株式評価損計上の可否

残余財産分配以前の子会社株式評価損計上の可否についてご教示ください。


Answer

下記です。

【解説】
業績不振の子会社株式について評価損の計上に係る可否、また、その計上時期は①解散前②解散後③残余財産の確定のときかの判断が煩雑です。
通常は下記の通達要件を満たした時に初めて評価損が計上できます。

【法人税基本通達9-1-9】
(上場有価証券等以外の有価証券の発行法人の資産状態の判定)

9-1-9 令第68条第1項第2号ロ《上場有価証券等以外の有価証券の評価損の計上ができる事実》に規定する「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したこと」には、次に掲げる事実がこれに該当する。(昭52年直法2-33「7 」、昭54年直法2-31「三」、平11年課法2-9 「十」、平12年課法2-7 「十六」、平16年課法2-14「八」、平17年課法2-14「九」、平19年課法2-3 「二十一」、平21年課法2-5 「七」、平22年課法2-1 「十七」により改正)


(1) 当該有価証券を取得して相当の期間を経過した後に当該発行法人について次に掲げる事実が生じたこと。

イ 特別清算開始の命令があったこと。

ロ 破産手続開始の決定があったこと。

ハ 再生手続開始の決定があったこと。

ニ 更生手続開始の決定があったこと。


(2) 当該事業年度終了の日における当該有価証券の発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額が当該有価証券を取得した時の当該発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額に比しておおむね50%以上下回ることとなったこと。
(注) (2)の場合においては、次のことに留意する。

1 当該有価証券の取得が2回以上にわたって行われている場合又は当該発行法人が募集株式の発行等若しくは株式の併合等を行っている場合には、その取得又は募集株式の発行等若しくは株式の併合等があった都度、その増加又は減少した当該有価証券の数及びその取得又は募集株式の発行等若しくは株式の併合等の直前における1 株又は1口当たりの純資産価額を加味して当該有価証券を取得した時の1株又は1口当たりの純資産価額を修正し、これに基づいてその比較を行う。

2 当該発行法人が債務超過の状態にあるため1株又は1口当たりの純資産価額が負(マイナス)であるときは、当該負の金額を基礎としてその比較を行う。


債務超過の会社に出資した場合の評価損計上要件は上記の(注)2 です。
『法人税基本通達逐条解説』(税務研究会)では、「取得時における1株当たりの純資産価額がプラス100の場合には、これに比して50%以上下回るというのは、プラス50以下となることであるが、マイナス100が50%以上下回るというのはマイナス150以下となることである」とあります。『法人税基本通達の疑問点』(ぎょうせい、下記出典元、一部筆者改変)では「取得時の純資産価額が0の場合の50%基準の適用はどうするか」とのQに「50%基準ではなく、取得経緯等を総合勘案して判定」とあります。
発行法人の増資を引き受けた場合、増資後でも債務超過が解消できない場合、増資後の株式評価損は計上できません(法基通9-1-12)。

【法人税基本通達9-1-12】
(増資払込み後における株式の評価損)

9-1-12 株式(出資を含む。以下9-1-12において同じ。)を有している法人が当該株式の発行法人の増資に係る新株を引き受けて払込みをした場合には、仮に当該発行法人が増資の直前において債務超過の状態にあり、かつ、その増資後においてなお債務超過の状態が解消していないとしても、その増資後における当該発行法人の株式については令第68条第1項第2号ロ《上場有価証券等以外の有価証券の評価損の計上ができる事実》に掲げる事実はないものとする。ただし、その増資から相当の期間を経過した後において改めて当該事実が生じたと認められる場合には、この限りでない。(昭54年直法2-31「三」により追加、平12年課法2-7「十六」、平17年課法2-14「九」、平21年課法2-5 「七」により改正)


当該通達で評価損計上不可としているのは当該増資後です。平成7年4月14日裁決では課税庁がこれを拡大解釈して課税処分を下したものの、審判所は文理で認定し納税者が勝利した事案があります。課税庁は増資前株式評価損を否認しています。納税者の処理は、期末日直後増資をし、当該増資直後に評価損を計上しており、経済的実質の観点から法基通9-1-12を拡大解釈したかった課税庁の思惑はわかります。

(非上場株式の評価損/資産状態の著しい悪化)
非上場株式の発行法人の資産状態が著しく悪化し、その価額が著しく低下した場合に該当するとして、評価損の計上が認められ、更正処分の全部が取り消された事例(平成元年4月21日から平成2年4月20日までの事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分・全部取消し、平07-04-14裁決)(TAINZコード F0-2-116)

〔裁決の要旨〕

1 親会社が欠損の子会社を存続させるためにその子会社に対して増資払込みをすることは、その事情においてやむを得ないものがあることもあり、請求人の場合には、関連会社が同じ経済圏で営業している等の事情を併せ考慮すれば、単に増資払込みの事実をもって業況の回復が見込まれると解するのは相当でない。

2 また、増資直後の株式の評価減が認められないとしても、増資直前の事業年度についてまで無条件に旧株について株式の評価減を行うことを妨げるものではないと解するのが、相当であるところ、請求人の場合、本件事業年度にX社の増資に対して払込みを行う旨の社内決済を了しているものの、翌事業年度に本件増資払込みが貸付金の充当という形で行われていることから、翌事業年度においての本件増資払込みが本件事業年度の株式の評価損の計上に影響を与えるものではないと解するのが相当である。

3 X社の財務状態が大幅な債務超過に陥ったことに伴い、主たる株主などが多額の撤退費用を支払って、その経営から退いたこと、X社は多額の欠損金を有し、請求人から多額の借入れをし、その利息を支払っていないこと等を考慮すると、X社の業績が早期に回復することが見込まれる状態にあるとすることは相当ではない。

4 以上の結果、本件株式は法人税法施行令第68条第2 号ロに規定する「その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下した」場合に該当するので、本件株式について評価損を計上することが認められ、本件更正処分はその全部を取り消すべきである。




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伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。