執筆者:伊藤俊一 先生
※伊藤先生のプロフィール詳細は、本ページの最後にてご確認いただけます。
Q. 適格現物分配に見られる組織再編成における事業単位の考え方
適格現物分配の税務上の考え方、すなわち「事業単位」の考え方を教えてください。
Answer
通説では、組織再編成税制が制度化された平成13年の事業単位の考え方は平成22年度改正をもって当初の考え方が後退した、と考えられています。実質的には解釈変更です。
【解説】平成18年度改正税法のすべてにおいて、「事業」の譲渡は下記のように解説されています。
この場合の事業(営業)とは、旧商法において会社の分割における承継の対象が営業の全部又は一部とされていたところのその「営業」や会社法の事業譲渡(会社法467)における「事業」の概念と基本的に同様のものと考えられます。なお、旧商法等における営業とは「営業用財産である物及び権利だけでなく、これに得意先関係、仕入先関係、販売の機会、営業上の秘訣、経営の組織等の経済的価値のある事実関係を加え、一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産」という(最大判昭40.9.22)こととされています。
一方、平成22年税制改正によりグループ法人税制が制度化されたころの「勉強会論点とりまとめ」では、下記の内容が確認できます。
(適格現物分配について)通常の譲渡取引ではないので、完全支配関係がある場合の譲渡損益課税とは異なり、組織再編成における取扱いとする方向で検討するのが適当と考えられる。
当該現物は会社法上の現物配当における「現物」要件性チェック、すなわち「金銭以外の資産性のあるもの(負債は除かれる)」に従い、現物に適合するか判定するのが実務であるため、ここで大きく事業単位の考え方は変化があったと認識できます。
上記に関連し参照すべきものとして、朝長英樹氏は、「
ヨーロッパは『事業の継続性』に着目した制度、アメリカは『投資の継続性』に着目した制度、そして、我が国の場合には『グループ』に着目した制度、ということになります。(朝長英樹『組織再編成をめぐる包括否認と税務訴訟』484頁(平成24年 清文社))」と説明しており、完全支配関係であっても、事業単位の移転が必要であると解釈されていることを示しておきます。
東京地判令和元年6月27日(TPR事件)はこの点、行為計算否認を発動しました。納税者は吸収合併の前月、A社と同じ事業目的のB社を設立しました。
B社はこの後、A社を吸収合併し、旧A社の全従業員をB社に転籍させ、旧A社の事業に係る製品、仕掛品、原材料等の資産、旧A社の従業員に係る負債をB社に譲渡しました。一方で、旧A社の事業に係る製造設備はB社に賃貸しました。
地裁は、「
本件合併は形式的には適格合併の要件を満たすものの、組織再編税制が通常想定している移転資産等に対する支配の継続、言い換えれば、事業の移転及び継続という実質を備えているとはいえず、適格合併において通常想定されていない手順や方法に基づくもので、かつ、実態とはかい離した形式を作出するものであり、不自然なものというべき」と判示しています。
本事例がユニバーサルミュージック事件(東京地判令和元年6月27日)と大きく異なるのは証拠です。下述の国税速報の記事にあるように純理論的に考えた場合、この判決は事業単位の従来のフレームワークを逸脱しており、行き過ぎたものと考えます。
しかし、本件合併のプランニング検証資料において「メリット」「ねらい」等々、未処理欠損金額を利用した節税効果が挙げられていたといいます。この証拠により、本件合併の目的は事業目的ではなく税目的と判定され、未処理欠損金額の引継ぎにあったとみるのが相当と判断したわけです。
上記に対して「合併による事業の移転及び継続は未処理欠損金額の引継要件となるか(北村豊 国税速報令和元年9 月30日第6577号)」においては
- 資産等の果たす機能の面に着目したときに、何故、資産等を用いて営んでいた事業が移転し、引き続き営まれることが想定されているといえるのか
- 個別資産の売買取引と区別するために、何故、資産の移転が独立した事業単位で行われ、事業が継続することが想定されているといえるのか
と疑問を呈しています。
上述の通り、純理論的な結論ではなく客観的証拠に基づいた点で(心証としてはヤフー事件に近いものがあります)、裁判官の心証が極めて悪くなり、判決では本来の制度趣旨まで事実上、無視されてしまったという意味において、ユニバーサルミュージック事件との比較対象として興味深いものと考えます。
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