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COLUMN

2022.01.20税務コンサルのポイント

【事業承継スキーム】持分会社スキームの各種留意点

  • 富裕層コンサルのイロハ
  • 事業承継スキーム

本コラムは、(株)日税ビジネスサービスの研修でも講師としてご活躍いただいている伊藤俊一先生に、事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティング等の数百件のスキーム立案実行経験をもとに、事業承継スキームについてQ&A形式でまとめていただきました。この情報が関与先様へのアドバイスの一助となれば幸いです。なお、伊藤先生のプロフィールは、本ページの最後にてご確認いただけます。


Q. 持分会社スキームの各種留意点

このスキームでの留意点についてご教示ください。


Answer

実行にあたっては、下記の事項を総合勘案する必要があると思われます。

【解説】

1. 債務超過部分を債務控除の対象とするための要件
債務超過分部分は無限責任社員の連帯債務であり、債務控除の対象となるのは被相続人が負担することとなることが確実と認められる債務相当額であるということ、つまり、①相続開始時に評価会社の経営が行き詰まり、②債務超過が著しい場合で、③当該債務について死亡した無限責任社員が責任を負うことは確実で、④かつ相続において負担すべき金額が確定している場合に、債務超過部分を債務控除に使えるということになります(注1)。


2. 事実認定の問題
債務超過の1人株式会社を1人合名会社に組織変更して債務超過分部分を債務控除額に充てることについて、なぜ1人株式会社を1人合名会社に組織変更したかということを、疎明しなければならないと思われます。1人合名会社が債務超過の株式会社を吸収合併して債務超過になるのも、なぜ債務超過の株式会社を合併したかということについて当局と見解の不一致が生じる場面だと思われます。
1人の株式会社を1人の合名会社にするということに関して経済的合理的な理由は見つからないように思われます。
合併スキームについても、合名会社が債務超過である株式会社を買ってくることには非常に違和感があります。その株式会社が非常に特殊な技術を持っている、ニッチな取引先を持っている、などといった特殊な状況であれば、経済的合理性はあるかもしれません。しかし、買収する会社が合名会社である合理的な理由が見当たりません。
このスキームについては実務上の事例集積段階にあるので、実行する場合は慎重に行う必要があります。


3. 単に債務超過だからということで債務控除できるものではない
このスキームは、所得税基本通達64-3や相続税法基本通達14-3とのバランスの問題があるということも指摘されています(注2)。


【所得税基本通達64-3 】
(回収不能額等が生じた時の直前において確定している「総所得金額」)

64-3 令第180条第2項第1号《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》に規定する「総所得金額」とは、当該総所得金額の計算の基礎となった利子所得の金額、配当所得の金額、不動産所得の金額、事業所得の金額、給与所得の金額、譲渡所得の金額、一時所得の金額及び雑所得の金額(損益通算の規定の適用がある場合には、その適用後のこれらの所得の金額とし、赤字の所得はないものとする。)の合計額(純損失の繰越控除又は雑損失の繰越控除の規定の適用がある場合には、当該合計額から総所得金額の計算上控除すべき純損失の金額又は雑損失の金額を控除した金額とする。)をいうものとする。(昭50直資3-11、直所3-19改正)

(注) 上記の譲渡所得の金額とは、長期保有資産(法第33条第3項第2号《譲渡所得》に掲げる所得の基因となる資産をいう。)に係る譲渡所得であっても、2分の1する前の金額をいうことに留意する。また、一時所得の金額についても同様である。


【相続税基本通達14-3 】
(保証債務及び連帯債務)

14-3 保証債務及び連帯債務については、次に掲げるところにより取り扱うものとする。(昭57直資2-177改正、平15課資2-1 改正)

(1) 保証債務については、控除しないこと。ただし、主たる債務者が弁済不能の状態にあるため、保証債務者がその債務を履行しなければならない場合で、かつ、主たる債務者に求償して返還を受ける見込みがない場合には、主たる債務者が弁済不能の部分の金額は、当該保証債務者の債務として控除すること。

(2) 連帯債務については、連帯債務者のうちで債務控除を受けようとする者の負担すべき金額が明らかとなっている場合には、当該負担金額を控除し、連帯債務者のうちに弁済不能の状態にある者(以下14-3 において「弁済不能者」という。)があり、かつ、求償して弁済を受ける見込みがなく、当該弁済不能者の負担部分をも負担しなければならないと認められる場合には、その負担しなければならないと認められる部分の金額も当該債務控除を受けようとする者の負担部分として控除すること。


合名会社等の無限責任社員も、会社が返済できない状況にあり、かつ主たる債務者に求償しても返還を受けることができない場合に債務控除の対象となるものであって、会社が債務を返済することができないかどうかは事実認定の問題であり、単に債務超過であれば債務控除ができるというものではないという見解もあります。
当該オーナーは、相続税の申告を出すぐらいの富裕層ですが、そのような人が他に財産を保有しているのに、なぜ合名会社の部分だけ債務超過に陥っているのかということについて、合理的な理由が必要だと思われます。

ここで過去の判例を1点ご紹介します。
相続税法第64条で否認された事案です。同族法人で不動産を時価より遥かに高額で借入金により購入し、その借入金の連帯保証人に当該同族法人の代表者がなった事例です。当該代表者がなくなった場合、その連帯保証分は債務控除の対象とできます。これについて裁判例では、法人を経由した相続税の圧縮行為をみなして相続税法第64条を発動したのです。

大阪地方裁判所平成16年(行ウ)第97号相続税決定処分等取消請求事件、平成16年(行ウ)第141号差押処分取消請求事件(棄却)(控訴)
国側当事者・平成16年(行ウ)第97号につき茨木税務署長、平成16年(行ウ)第141号につき大阪国税局長平成18年10月25日判決【税務訴訟資料 第256号-292(順号10552)】【相続税法64条1 項における「不当に減少」の判断基準/高額な土地取引】

〔判示事項〕

被相続人の遺言書の内容と被相続人と同族会社との間の土地売買契約の内容とが符合しないことなどから、当該売買契約は仮装された存在しないものであるとする課税庁の主張が、当該売買契約書が被相続人の意思に基づいて作成されたものではないと認めるのは困難であるとして排斥された事例

相続税法64条1項(同族会社の行為又は計算の否認等)における「相続税又は贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」場合の判断基準同族会社と被相続人との間で締結された土地売買契約は、経済的、実質的見地において純粋経済人の行為として不自然、不合理なものというほかなく、同社の株主である納税者らの相続税の負担を不当に減少させる結果をもたらすものであることは明らかであるとされた事例

被相続人と同族会社との間の土地売買契約は、当該同族会社を存続させるための唯一の方策として採用したものであり、被相続人らには不当に相続税の軽減を図るという意図など全くなかったから、当該売買契約は相続税法64条1 項(同族会社の行為又は計算の否認等)により否認することができる場合に該当しないとの納税者の主張が、当該売買契約の究極的な目的が納税者の主張するとおり同族会社を存続させることにあるとしても、時価相当額の13倍をこえる価格を売買契約の代金額として定めることが、経済人の行為として合理的かつ自然なものとは到底いうことはできないのみならず、当該売買契約の締結に至る経過事実に照らしても、当該売買契約が納税者らの相続税の不当な軽減を図ることを目的として締結されたものであることは明らかであるとして排斥された事例

納税者は土地売買契約に基づき同族会社の借入金債務を承継することになり、それと合わせて相続税等を支払う能力はなかったところ、納税者のように担税力のない者に相続税法64条1項(同族会社の行為又は計算の否認等)を適用することは同項の趣旨に反するとの納税者の主張が、納税者が同族会社の借入金債務を負担することになったのは、納税者が代表取締役を務める同族会社が相続税法64条1 項の規定による否認の対象となるような土地売買契約を締結したことによるのであり、しかも、納税者に同項を適用しないことにより、かえって租税回避行為が容易に行われるのを防止して租税負担の適正化を図るという同項の趣旨、目的が害されることになるとして排斥された事例


保証債務が相続税法14条1項(控除すベき債務)にいう確実と認められる債務に該当するか否かの判断基準

同族会社の損益計算書において当期未処理損失が計上され、債務超過状態にあったことがうかがわれるものの、同社について破産、会社更生等の法的整理手続が進行していたり、同社が事業閉鎖により再起不能であったなどの事情はなく、同社は被相続人の死亡後もその事業を継続していたと認められることからすれば、相続開始時において被相続人が同族会社から保証債務に係る求償権の履行を受ける見込みがなかったということはできず、よって、本件における相続債務は相続税法14条1 項にいう確実と認められる債務には該当せず、相続税の課税価格の計算上控除されないものというべきであるとされた事例(上告棄却・不受理)


生前に債務控除を半ば無理やり「作出した」という点で少々、類似性があると思われます。

注 釈

(注1)竹内陽一・掛川雅仁編著『自社株評価Q&A』(清文社 2017年)352頁

(注2)内倉裕二『資産税事例検討会』(税務研究会税務情報センター)28頁より




※コラムに関するご質問は受付しておりません。予めご了承ください。



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伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。