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COLUMN

2021.12.13国際税務・海外ビジネス

第3回 タイの会計・税務の制度①

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本コラムは、(株)日税ビジネスサービスの研修でも講師としてご活躍いただいている上原重典先生に、タイにおける現地の会計・税務、日本本社との取引に対するコンサルティング、現地社員人事制度の構築、進出・撤退、ローカルファイルの作成支援等の経験をもとに、タイの会計・税務制度や事業活動する上で必要になる知識等についてご解説いただきます。この情報が関与先様へのアドバイスの一助となれば幸いです。なお、上原先生のプロフィールは、本ページの最後にてご確認いただけます。



こんにちは。 日本・タイで会計・税務をはじめ、進出相談等を提供しているAlpha Professionsの上原です。
今回から数回にわたり、タイの会計・税務の制度の基本をご紹介したいと思います。


第3回 タイの会計・税務の制度①


タイにおいては、会計人法(Accounting Professions Act.)と会計法(Accounting Act.)という法律が定められており、この法律を中心にして、会計処理の規則、基準(Accounting Standard)が定められています。
会計基準は大きく公開会社に適用するものと、非公開会社に対して適用するものがあり、タイに進出している日系企業の場合、その多くはタイ国における非公開会社に該当する法人と考えられるので、本コラムでは、会計制度の内、非公開会社に適用される規則、基準等を中心に紹介したいと思います。

1. タイの職業会計

タイ会計人法並びにタイ会計法においては、事業主体(一般的には法人)に対する責務、会計責任者に対する責務、当局の調査権、罰則、会計といった内容を定めています。法人に対する責務として、会計帳簿の備え付け、財務諸表の作成及び提出、書類の保管、会計書類等の閲覧等、企業が利害関係者に対して提供する会計情報の適切な維持・管理について定められています。
次に、会計責任者の責務として、会計の管理、書類の整備等を行い、法人が有する責務を履行できるように管理、監督を行うものと定められおり、この会計責任者を一般的にCPD(Continuing Professional Development)と呼んでいます。CPDは資格試験によって得るタイトルではなく、大学で会計学を専攻、会計士連盟(Federation of Accounting Professions)が定める研修を受け、所定の手続きを経て与えられる認定資格です。

資格の話をすると、タイで会計に関連する資格として、公認会計士(Certified Public Accountant),Tax Auditor(日本で言うところの税理士)、そしてCPDとなります。
大きな違いは、CPAは企業が作成した会計帳簿その他関連資料に基づいて、財務諸表の監査をすることが一つの大きな職務となります。
Tax Auditorもまた一定規模以下の企業の会計監査を実施することができますが、どちらかというと税務に精通(?)した資格と言われています。
これに対してCPDは監査対象となる財務諸表の作成を行うものとなり、当局に対する会計責任者という立場となります。タイにおいては、会社設立時にかならずCPDのタイトル保持者を置かなければならないとされています。ただし直接の雇用までは強制されておらず、会計事務所に経理業務をアウトソーシングしている企業の場合には、そのアウトソーシング先でCPDのタイトルを有するスタッフがこのポジションとしての業務を提供しているのが多いでしょう。
法人格を有してタイにおいて事業活動を行うすべての事業体には、タイの公認会計士による会計監査が義務付けられおり、この点は日本と大きく異なる点で、タイに進出する日系中堅企業の方からは、「なぜ監査を受ける必要があるのか?」といった疑問も持たれる方は非常に多いです。まあこれもタイ国の制度である以上、これに従う必要があるので、ご理解いただきたいところです。 

タイ現地企業は、毎年決算日以降5カ月以内に公認会計士の意見書のある財務諸表を商務省事業開発局(通称、DBD:Department of Business Development)に提出することが義務付けられており、これを怠った場合には、会計情報の備え付けの義務のある法人及びそれを管理・監督する立場であるCPDには罰則が科せられます。
タイにおける職業会計人の人数は需要に対して供給は非常に低いと言われおり、単なる経理スタッフであればスキルを問わずに求人をすることは可能ですが、会計責任者、すなわちCPDのタイトル保持者となると求人が非常に難しくなります。
なぜそのような状況になってしまうのか? 弊社の採用の際に求職者に尋ねてみましたが、基本的に会計業務は残業も多く(場合によってはサービス残業)、責任も他の一般事務職と比べると大きく、その割に給与が安いので、人気のある職業ではないと言われたことがあります。
さらに経理人材の離職率は高く、関与先の人事を見ている経験では3年在職していれば長く在職した方だろうという印象です。

話をタイの会計の現場に戻すと、タイの会計基準は、Thai Accounting Standard(TAS)並びにThai Financial Reporting Standard(TFRS)というIFRS(International Financial Reporting Standard)に準拠した制度があり、基本的な構造は、いわゆる国際会計基準を基本に作られていることから日本人にとって理解すること自体は難しいものではないことでしょう。
これらの基準が公開会社か非公開会社であるかによって、TFRS for NPAEs(Non-Publicly Accountable Entities)と公開会社向けの会計基準であるTFRS for PAEs(Publicly Accountable Entities)に区別されています。
従って多くの日系企業の場合、上記の内、TFRS for NPAEs(Non-Publicly Accountable Entities)に従った会計処理を適用しております。
NPAEとPAEとの差異は、簡単に言えばTFRSに定められた項目の内、適用範囲が異なるといったところです。これに対してTFRS for NPAEの見直しが行われ、いわゆるSME基準というものがつくられ、2019年から順次適用を開始することとなりました。日系SMEが直接関係する項目としては、キャッシュフロー計算書の開示、連結財務諸表の開示、税効果会計の適用、デリバティブ取引に関する会計処理、開示が順次義務付けられていくことになるといったところでしょうか。
日本においては、グループ会社を有しているような場合には連結決算書を作成することは日常の会計業務の中で行われている中小企業も少なくはないと思います。
特に税効果会計に至っては、会計と税法が大きく乖離している項目も少なくないことから、きわめて普通の会計処理事項として対応されており、いわゆる「有税で処理する」といった言葉に象徴される、会計と税務の乖離への対応となるわけですが、これに対してタイにおける職業会計人、特にCPDという認定資格保持者の場合においては、そもそも連結財務諸表やキャッシュフロー、税効果会計といった項目をまだまだ正確に理解できていない者も多く、特に小規模で運営されている企業にとっては、新会計基準へ対応していくことが人材面でも大きな課題と懸念されるところです。
特に昨今日本の会計においても、固定資産の減損会計、退職給付会計といったような計算自体も複雑で、かつ、判断を要するような項目が増加する中で、制度を理解し、正確な計算を行える人材が十分でないことは否定できないところです。
さらにTFRS for SMEに対応することで、会計上の利益(又は損失)と税務申告上の利益(又は損失)は乖離することとなり、その乖離分に対して税効果会計を適用することになるはずですが、繰延税金資産、繰延税金債務の回収期間の検討、具体的な繰延税金の計算そのものができる会計人材が非常に少ないように感じます。


2. 日々の業務の中での会計

タイの会計というのは、基本的に「紙文化」で成り立っており、すべての証憑類は紙で作成し、それを保存することが第一の要件とされてきております。
最近になってようやく電子的な帳票が認められていますが、それでも「紙ベース」で対応する習慣はまだまだ減少しておりません。特に付加価値税(VAT)については、日本と異なりインボイス方式を採用していることから、このVATのための書類を作成、回収等が非常に重要な業務となっています。
なぜVATの処理を行う際の紙が大事かというと、すべてのVATはTax Invoiceと呼ばれる書類で裏付けされていなければならず、かつ、この裏付けがないVATの支払い、受取はVATの申告上考慮することができなくなってしまいます。その結果、VATの申告を誤った場合には、ペナルティが課されることとなります。特に無申告になった場合や過少申告となった場合には、最大で納税額の200%のペナルティが課せられる可能性があります。
よって会計スタッフの中には、VATの処理だけができ、その前後の本来あるべき会計処理ができない人材が多い、言い換えれば、会計業務を点でしかとらえておらず、線で考えた場合のあるべき姿を想像できていないケースが多いと感じるところです。

日常の業務における会計のもう一つ特徴的なところは、伝票会計を行うことにあります。タイ人経理スタッフの多くは、売上伝票を作成する者と購買関係の支払伝票を作成する者が分かれていることが多いです。
会計処理は通常複式簿記の原理に基づいて処理されることが当たり前ですが、タイの場合には借方しか見ない者、貸方しか見ない者といった具合に役割が分担されていることが多く、必ずしも経理担当者が複式簿記の原則を理解して会計帳簿が作成されているとは限らないことが発生しがちです。
また多くの会計人材は、これまでの経験値の中で物事を判断する傾向にあり、各企業における個別の事情や、個々の企業の独自の会計の処理の基準を検討しないことも少なくありません。一言で「会計」と言ってもタイにおいては、日本以上に個々の能力に依存するところが多い業務であることは間違いないところでしょう。



次回は具体的な会計制度の流れについて紹介したいと思います。


※コラムに関するご質問は受付しておりません。予めご了承ください。



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上原 重典

Alpha Professions 上原重典税理士事務所 代表大手外資系会計事務所、税理士法人XATを経て、2012年よりタイ現地法人の責任者としてバンコクに駐在、2017年11月よりAlpha Professionsとしてその事業を引き継ぐ。国内においては日系、欧米系の企業の財務、税務に関するコンサルティング、タイにおいては日系中堅企業を中心に、現地の会計・税務、日本本社との取引に対するコンサルティング、現地社員人事制度の構築、進出・撤退、ローカルファイルの作成支援等を提供している。