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COLUMN

2021.11.30M&A全般

<M&Aにおけるデューデリジェンスについて>その3:デューデリジェンスは万能か? 失敗事例からの考察

  • M&A

本コラムでは、当社の経験豊富なシニアマネージャーが執筆しております。この情報が関与先様へのアドバイスの一助となれば幸いです。



↓前回分はこちら↓
 ■<M&Aにおけるデューデリジェンスについて>その2:セルサイドデューデリジェンス


デューデリジェンス(買収監査)はM&Aでの失敗を防ぐために必要不可欠なものではありますが、買収での失敗を回避するものはデューデリジェンスだけではありません。デューデリジェンスが行われても正しく抑止効果が働かないと失敗へと突き進むことになるからです。
デューデリジェンスをテーマに取り上げた最終回は、この10年以内に発生したM&A失敗事例の中からデューデリジェンスの限界について考察してみたいと思います。

まず、DeNA社のケースです。
同社の主たる事業はゲーム事業でしたが、そこからの多角化を狙って2014年にキュレーションサイトを運営するiemo社とペロリ社を買収し、10サイトの運営を開始しました。
しかし、ヘルスケア関連の情報を取扱うWELQなどの運営サイトにおいて、根拠が不正確なものや外部コンテンツの無断使用と見られる記事が多数発見されるといった事態が発生し、最終的にはこれらのサイトを閉鎖することになり、同社は大きな損害を被ることとなりました。

同社の第三者員会の調査報告書によると、問題の原因や背景として、以下の4点が指摘されています。

①iemo社及びペロリ社の買収によりキュレーション事業へと新規参入する段階で、同事業に関する分析・議論が尽くされず、事業リスクが適切に把握されなかったこと。

②iemo社及びペロリ社の買収後、キュレーション事業を開始する局面において、同事業の潜在的なリスクに対する予防策が十分に講じられなかったこと。

③キュレーション事業を拡大していく過程においても、同事業のリスクに対するチェックや手当てが十分ではなかったために、リスクの顕在化を招くとともに問題の早期発見が遅れたこと。

④キュレーション事業においては事業運営に対する「自己修正」を妨げる要因が複数存在していたこと。


これらの原因を総合すると、DeNA社の場合、デューデリジェンスが稚拙であったことはもちろん失敗の原因ではあるのですが、その他にも組織的意思決定メカニズムが機能していなかったこと事業に対するリスク管理対策が不十分だったことも挙げられます。買収は新たなリスクを取得する行為でもあるので、買収側のリスク管理態勢が不十分であるのに関わらず、トップダウンに取得を急ぐと思わぬ落し穴に陥ることになりかねないということです。

次の事例として、LIXIL社のケースも紹介しておきます。
同社は、住宅設備機器の大手企業ですが、国内市場環境の縮小を見込んで海外進出を図るべくM&Aを積極活用し、その一環として2014年にはドイツの水栓器具メーカであるGROHE(グローエ)グループのブランド力の獲得を狙って買収を行いました。
しかし、グローエグループの中国子会社であるJoyou(ジョウユウ)社において不正会計が発覚し、最終的には破綻処理を迫られることとなった結果、LIXIL社は関係会社投資の減損損失や債務保証関連損失などで総額600億円を超える損失を計上することとなりました。
同社の失敗の場合にも先のDeNA社と同様に幾つかの問題点が重なっています。

事件後に同社が行った社内調査委員会による調査結果では、以下のポイントが指摘されています。

①不正会計として、財務書類の改竄や会社が承認していない簿外融資などが多年にわたって行われていたこと。

②グローエ社の経営陣は、その子会社(LIXILの孫会社)ジョウユウ社における内部統制、コーポレートガバナンス、及び財務報告が不十分なものであったことを認識していたが、これら懸念事項を親会社であるLIXIL社へ早い段階で報告していなかったこと。


LIXIL社が買収に際してもっとしっかりとしたデューデリジェンスを行っていれば不正会計による損失を回避できていたかもしれません。買収対象としてのグローエに目が向く一方で、その子会社の実態調査が甘くなった可能性もあります。

以上に紹介した2つの例では、デューデリジェンスそのものの水準が未熟であったことは勿論なのですが、組織的な内部統制やガバナンスについても未熟なものであったということが指摘できます。
M&Aでの買収行為は、新たなリスクを取得することなので、デューデリジェンス技術の水準だけでなく、リスク管理プロセスがしっかりしていないと大きな損失事故につながってしまう危険性があります。

デューデリジェンスはあくまでもリスク管理プロセスの一部でしかありません。
M&Aにはオーガニックな事業育成にはないスピード経営や、その他にもブランド強化、多角化によるグループシナジー効果などのメリットも多くあり、経営者であればその有効活用を検討することは重要です。但し、買収者にはしっかりとリスクをマネージメント出来る組織であることが求められるということではないでしょうか。





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