今回からは、事業承継スキームについてです。Q&A形式でお送りいたします。
Q. 資産管理会社組成上の留意点
〇個人所有のストラディバリウスを法人に譲渡
〇譲渡対価を法人側では借入計上、この借入金は創業者からのもの、すなわち社長借入金
〇本借入金は相続財産になることから、この対策として下記のスキームを実施
〇借入金を個人から債務免除
〇債務免除益を減価償却費で充てる(見込み)
〇ストラディバリウスは価値が減価しないことを根拠に減価償却費が否認された(法令13)
〇1人の株主による債務免除益で株価が上がったため、他の株主にみなし贈与があったものとして課税
⇒ここがこのスキームでもっともおかしいところです。
通常、オーナーが「公益目的事業」を「本当に行い」かつ「相続財産」を切り離したいというのであれば、公益財団法人を別途設立、そちらへ売却、いわゆる「公益財団法人スキーム」「措置法40条スキーム」といわれるものを実行します。
創業者が法人に貸し付けたということです。ここも大事なポイントですが、資産管理会社に個人相続財産を持たせてはいけません。
本件の場合、借方のバイオリンは美術骨董品として、株価に反映されますし、オーナー貸付金は券面額で相続財産評価額です。
*ストラディバリウスは価値が減価しないことを根拠に減価償却費が否認された(法令13)
⇒美術骨董品の減価償却については下記ご参照のこと。
当該ケースは下記リンク先より減価償却できません。
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/bijutsuhin_FAQ/index.htm
*1人の株主による債務免除益で株価が上がったため、他の株主にみなし贈与があったものとして課税
⇒債務免除した場合は原則としてみなし贈与課税されます。
課税標準の算定方法は
≪債務免除益後の株価-その前の株価=差額が1株当たりの課税標準≫
これに株数を乗じて各人の贈与税の課税標準額算定。
※債務免除益後の比準要素においてⒷ、Ⓒは考慮なしですが、Ⓓは債務免除益をプラスします。
1)個人から法人に対する低額譲渡を行う(法人で30%程度の課税をあえて受け入れる)
⇒個人的には反対です。理由は下記の通りです。
・低額譲渡でも株主間におけるみなし贈与(相法9)は発動
・時価の問題
今回のような骨董品は時価の見解が国税と大きく分かれる可能性があります。鑑定評価書合戦になる可能性が100%ないと限りません。
となると以下の論点が生じます。
・みなし譲渡発動可能性
上記の評価書合戦で万が一、時価の1/2となると発動されるおそれがあると思います。
・たとえ低額でも譲渡金額の決済は必要
通常、当該ケースのように管理会社に相続財産を持たせることはないでのすが、本ケースではその譲渡代金額を創業者が貸しています。後々の相続税を考えると絶対このような金銭取引はしません。
・さらに債務免除ではなく、DES を実行する必要性がある可能性あり、本ケースのように社長貸付を課税なく実行するにはDESしかありません(外形標準課税や欠損填補目的のDESに該当し均等割が増加することを除く)。
仮に本スキームでバイオリン等の時価<オーナー貸付金だった場合、債務超過DESという別の論点が生じます。
債務超過DESの場合、貸付金の税務上評価額は0ですから、債務免除益が計上されます(債務超過DES の場合には債務免除と異なり、通常はみなし贈与は生じません)。
2)公益財団法人を設立して別途対応する
⇒多くの上場企業で実施されているスキームですが、今回のような場合はこれがベストな方法だったといえます。
・譲渡代金の金額の大きさ
・母体が上場会社でキャッシュの確保は容易
ということから総合的に勘案すると公益財団法人スキーム(措法40)スキームでしょう。【事業承継税制(特例)】持株会社スキームの基本と比較検討―① | ≪M&Aにおける企業価値算定⑤≫裁判例からみるM&Aにおける株価 |
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税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。