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■≪M&Aにおける企業価値算定③≫インカムアプローチ今回のコラムでは、企業価値評価において考慮すべき問題として、プレミアムとディスカウントについて取り上げます。まず、コントロールプレミアムというものについてです。
これは支配株式プレミアムとも呼べるものですが、株式には議決権があるので多数所有すれば会社の議決を支配できるようになり、一方で少数保有の場合には支配するまでには及びませんから、支配株主の株式価値は少数株主の株式価値よりも価値が高くなり、逆に少数株主の株式価値は支配力を持たない分安くなると考えられることから、一般にコントロールプレミアムとマイノリティディスカウントとして捉えられています。
両者は表裏の関係になります。コントロールプレミアムの概念に近いものとしてはTOBプレミアムを挙げることができます。このTOBプレミアムは市場株価とTOB価格との差で表されますが、直近2020年と2019年では年間平均値はどちらも30%強となっています。(マイノリティディスカウントとして測れば、30/(100+30)=23%と見ることになります。)
株価評価におけるプレミアム/ディスカウントとしては、以上の他、非流動性ディスカウント(流動性ディスカウント)というものもあります。これは非上場企業の株式の場合には、上場企業の株式のように簡単に換金できないことから、その制約を考慮して株価は安く評価されるべきであると考えるものです。
この非流動性ディスカウントについては、非上場企業のデータが公開されていないため、具体的なディスカウント水準を観察するのが難しいのですが、米国のファイナンシャルアドバイザーが米国企業543社を対象に1980年~2000年のIPOとプレIPO(IPO以前)の株価を比較して流動性の違いによるディスカウントの観察を行っています。
これによれば、IPOまでの日数が0~30日のケースではプレIPO株価は平均30%のディスカウントとなり、IPOまでの日数が121~153日のケースでは55%ディスカウントという具合にIPOまでの日数が長くなるほど非流動性ディスカウントが大きくなっています。
この非流動性ディスカウントの水準については、データ検証が難しいことから、株価評価の実務においては恣意性が入りやすい点には注意が必要です。
また非流動性ディスカウントの対象が支配力を有する株式持分なのか少数持分なのかによっても適用するディスカウント水準が異なるとも考えられます。
議決支配が可能な支配株持分の場合には、会社売却や配当支払を決議して現金獲得を図ることが可能となることから少数持分に比較してディスカウントは小さくなると考えられます。
次に、このプレミアム/ディスカウントが株価算定の各評価手法の下でどのように取扱われるかに触れておきます。
株価算定手法には大きく分けて、①コストアプローチ、②市場アプローチ、③インカムアプローチがあります。
まず、コストアプローチですが、対象企業の資産について資産の処分可能性までを考慮した時価評価がなされている場合には非流動性ディスカウントを考慮する必要はないものと考えられます。
市場アプローチの場合には、類似企業(上場企業)の市場株価倍率などとの比較を通して対象企業の株価を算定していますが、この時の市場株価は一般に投資家が市場売買する株価であるため、マイノリティディスカウントされた株価を用いていると考えられることから、対象企業の支配権を目的にしたM&Aの場合にはコントロールプレミアムを付加できると考えられますが、一方、対象企業が非上場企業の場合には非流動性ディスカウントを適用するという考えも成り立ちます。
最後にインカムアプローチについてですが、DCF法の場合、評価対象となる将来キャッシュフローは経営者(支配者)によって作成される経営計画に基づいて予想されますから、コントロールプレミアムを反映したものと考えられます。
一方で非流動性ディスカウントについては、過去の判例では、収益還元法において非流動性ディスカウントは適用できないとする最高裁判決があります。理由として幾つか挙げられていますが、なかでも収益還元法にはマーケットアプローチのような市場における取引価格との比較という要素がないという点が指摘されています。この考えからすればDCFにおいても同様に適用できないと考えることになりそうです。
以上、大まかにプレミアム/ディスカウントについて述べましたが、M&Aにおける価値算定実務において、どのような場合にどの程度のプレミアム/ディスカウントを適用するべきなのか明確なルールはなく、個々のM&A取引内容を確認した上で適用が検討されるべきと考えられます。
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