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COLUMN

2021.06.29M&A全般

≪M&Aにおける企業価値算定③≫インカムアプローチ

  • M&A

本コラムでは、当社の経験豊富なシニアマネージャーが執筆しております。この情報が関与先様へのアドバイスの一助となれば幸いです。



↓前回分はこちら↓
 ■≪M&Aにおける企業価値算定②≫マーケットアプローチ


M&Aにおけるインカムアプローチとは、対象企業からすると期待される利益やキャッシュフローを現在価値に割引いて株式価値を評価するというものですが、具体的には、割引対象として将来期待されるフリーキャッシュフローに着目するDCF法(Discounted Cash Flow)、利益に着目する収益還元法、配当金に着目する配当還元法といったものがあります。
重要な点は、変数を現在価値に割り引いて価値算定を行なうという点であり、コストアプローチのような静態的なものではなく、またマーケットアプローチのように財務指標を類似他社と直接比較して株価を算出するというものでもありません。インカムアプローチはあくまでも対象企業固有の将来を評価対象とする点が特徴と言えます。

DCF法の算式は、対象企業から期待される各年のキャッシュフローを割引率で現在価値に割引いた価値の総和として将来価値を算出しており、分子のキャッシュフローとしてはフリーキャッシュフローが用いられ、一方、分母の割引率には、加重平均資本コスト(Weighted Average Cost of Capital:WACC)が用いられます。

WACCは株主資本コストと他人資本コストの加重平均値として算出されますが、他人資本コストとしては実効税率を考慮した借入利率が用いられ、一方、株主資本コストは一般的には資本資産評価モデル(Capital Asset Pricing Model:CAPM)をベースとして算出される数値が用いられます。

CAPMの算式は、Re-Rf=β(Rm-Rf)として表されますが、Reは企業株価の期待リターン、Rmは株式市場全体の期待リターン(例:東証株価指数)、Rfは無リスク資産(例:国債)のリターン、βは株式市場のリスクプレミアム(=無リスク資産に対する超過期待リターン)に対する個々の企業の感応度を意味しています。
CAPMは、企業の株主資本コスト、すなわち株価期待リターンは市場リスクプレミアムをファクターとして決定されるという事を意味しているわけです。
CAPMについては様々な検証がなされています。
元来、CAPMは市場リスクプレミアムだけが個々の企業の株価に影響を与えるファクターであるとする所謂シングルファクターモデルですが、これに対して市場リスクプレミアムの他にも株価期待リターンに影響を与えるファクターが存在することを指摘する検証がなされ、代表的なものの1つに小規模リスクプレミアムと呼ばれる企業規模の違いによる期待リターン格差があります。
小規模企業は大規模企業に比べて事業リスクが高いことから投資家が期待するリターンもその分大きなものになるというもので、定量分析によってプレミアムが検証されています。

こうした市場リスクプレミアム以外のリスクプレミアムを加味したモデルとして、ファーマフレンチの3ファクターモデルなど幾つかのマルチファクターモデルがありますが、中小企業庁の非上場株式等評価ガイドラインでは、先述のモデルにRp(その他リスクプレミアム)を加味したRe-Rf=β(Rm-Rf)+Rpを紹介しています。

次に感応度βですが、これは個々の企業の株価リターンを市場株価リターンとの関係で計測したもので、最小二乗法で計算することが出来ます。
非上場企業の場合には、上場企業のように株価データがありませんから、一般的には、類似した事業を行なう上場企業についてβを計算し、この値を基に負債・資本構成の調整を施して評価対象企業のβを再推定するという手法が使用されます。
DCF法の分母の割引率に使用する資本コストの推計は以上のとおりですが、分子のフリーキャッシュフローは、法人税控除後営業利益+減価償却費―資本的支出±運転資本増減額として対象企業の事業計画が存在する期間については当該計画数値を用い、それ以降の将来数値については計画最終年度のフリーキャシュフローが永続するとの過程で行うのが一般的です。

このようにDCFでは評価対象会社の事業計画が存在することが前提となりますが、詳細な事業計画が策定される場合には精度の高い算定手法と言うことが出来ます。非上場企業の場合、事業計画が存在しない企業も多く、このような場合におけるインカムアプローチとしては、過去の利益をベースとした収益還元法が用いられています。
この収益還元法では、一般的には対象企業について税引後営業利益の過去数年間の平均値を算出し、この利益水準が向こう数年間継続すると仮定して割引算出を行ないます。分母についてはDCFと同様の考えです。

インカムアプローチについては研究や議論が盛んに行われており、特に資本コストについては、日本では2018年に改訂されたコーポレートガバナンス・コードで言及されたこともあって近年大変注目されています。


次回は、M&Aにおける株価のプレミアムとディスカウントについて取り上げたいと思います。




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