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COLUMN

2021.01.21税務コンサルのポイント

【事業承継税制(特例)】代表権返上と法基通9-2-32との関係、「資本金、資本準備金を減少した場合」の意義

  • 富裕層コンサルのイロハ
  • 事業承継税制


Q. 代表権返上と法基通9-2-32との関係、「資本金、資本準備金を減少した場合」の意義

1. 現在、代表取締役会長A(父)代表取締役社長B(子)となっています。
この度、Aが代表取締役のみを辞任するのですが、報酬を検討しています。取締役も辞任し、退職金の支払いを勧めていたのですが、引き続き報酬を取り続けたい意向があり退職金は払わず、できる限り高い報酬を取り続けたい意向があります。
代表を辞任すれば、有給の取締役でもいいと思います。その役職について、非常勤、常務、専務という役職の程度の等々その程度の問題はいかがでしょうか。現在、Aは月額報酬250万円、Bは月200万円です。
代表権はないので、人、モノ、金等の決定権はないことを承知し、最大限でもBより低い金額での設定が必要かと思いますが、150万円程度を予定しています。


2. 期限確定打切事由について
打切事由の1 つとして、資本金、準備金を減少したとき(欠損填補等目的を除く)、とあります。この減少には、自己株式の買取りも含まれるのでしょうか(法人税法上の資本金等の額の減少)。
承継者の上記B以外にBの弟Cも役員でいます。この役員Cから会社が株式を買い取ることを検討しています。
もし、贈与後に行うと事実上の減資に該当するとすれば、贈与前に行う必要があると思います。



Answer

中小企業庁の公表の事例から読みとれる部分がありますが、明確になっていない部分も多々あります。

【解説】

1. について

事業承継税制の趣旨は代表権の完全な移譲ですので、単なる分掌変更については法人税基本通達9-2-32を参照にすべきかと思われます。
この点、9-2-32によれば分掌変更後は2分の1以下にすべきと指針があります。これを承継税制においても同様に取り扱うかは、議論の分かれるところです。

①安全策として9-2-32の通りにする

②代表権を本当に移譲しているという客観的なエビデンスが存在するなら通達を形式通り当てはめる必要はない、つまり、むやみに2分の1以下にしなくてよい

という考え方があると思われます。

代表権を移譲したエビデンスがあり、他の常勤取締役と報酬が同額程度なら(要するに9-2-32における争点をクリアしているなら)150万円程度なら否認リスクは比較的少ないと思われます。

9-2-32の最大の争点は

「 (1)常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと。」

のエビデンスの確保です。従来の裁決、裁判例からも明らかです。単に「(3)」の報酬を50%以上激減しても意味がありません。


2. について

仮に役員Cについて事業承継税制の適用を受けないのであれば、つまりA→B間の事業承継税制のみであれば、特例適用後にCから金庫株をしても取消事由に該当しません。
しかし事業承継税制適用株式の譲渡には自己株式も含まれますので、納税猶予対象株式につき金庫株した場合は「譲渡」事由に該当し、納税猶予打消事由になります。

一方、納税猶予対象株式以外の株式を金庫株した場合、法人税法上の資本金等の額減少が生じますが、これは取消事由の1 つである「資本金、準備金を減少した場合(欠損填補目的を除く)」に該当するのでしょうか。
事業承継税制は民法特例ですから、民法の特別法である会社法上の減資しか適用ありません。つまり、法人税法上の資本金等の額の減少(減資)は関係ありません。

中小企業庁公表の冊子でも

「18. 資本金を減少した場合(欠損填補目的等を除きます。)
減資を行った場合(株式会社の場合は会社法第447条第1項、合同会社の場合は同法第626条第1 項)には、認定が取り消されます。ただし、減少資本金額の全額を準備金とする場合及び欠損填補目的の減資(会社法第309条第2項第9号イとロに該当する場合)については、認定は取り消されません。なお、会社法第447条第3項に該当した場合であっても、欠損填補目的の減資でないときは本号に該当します。

 19. 準備金を減少した場合(欠損填補目的等を除きます。)
準備金の額の減少を行った場合には、認定が取り消されます。ただし、減少準備金額の全額を資本金とする場合及び欠損填補目的の準備金の額の減少(会社法第449条第1項但書きに該当する場合)については、認定は取り消されません。」

とある通り、あくまで会社法上の減資規定のみ射程していることがみてとれます。

同様の論点でオーナーが事業承継税制(特例)を受ける前に第三者株主から株式を低額譲渡で購入してきた場合のみなし贈与(相法7)は贈与税の納税猶予対象になるかという論点がありますが、これもなりません。
あくまで民法上の贈与・相続のみが本税制の射程であり、税務上の贈与は射程外ということです。




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伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。