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COLUMN

2020.12.03税務コンサルのポイント

【事業承継税制(特例)】事業承継税制(特例)に係る事前説明責任について―②

  • 富裕層コンサルのイロハ
  • 事業承継税制

前回のつづきです。
↓前回分はこちら↓
■【事業承継税制(特例)】事業承継税制(特例)に係る事前説明責任について―①


4.先代オーナーの認知症対策

下記の方法が一般的です。

①家族信託(ただし、商事信託、民事信託、いずれにおいても信託された株式は納税猶予できません)

②任意後見+停止条件付贈与契約


私は上記のうち②をお勧めしています。理由は信託株式は納税猶予の対象にならないこと、そして下記の民事信託における実務上の取扱いの不明瞭さがあるからです。

民事信託(家族のための信託)が流行り始めてからずっと問題点になってきたことですが、信託口口座開設の以前より理解が得られやすいとはいえ、今もって各金融機関によって対応が異なります。

また、民事信託は任意後見における後見人によって撤回・変更される可能性があります。これは、後見人が委託者兼受益者に代わって、権限行使不能と規定していたとしてもです。この場合、後見人は、非訟において信託終了を代理して申し立てる可能性もあります。また、委託者が認知症になることを停止条件とする家族信託契約を組成した場合、条件成就時の不動産所有権移転登記では、申請が困難になる問題も指摘されています(注1)。

なお、②において条件停止に任意後見をセットにしているのは上記問題を回避するためです。

5.株券発行会社

当該会社が株券発行になっている場合、不発行に速やかに変更すべきです。

6.遺留分対策

上記の遺言書の作成時に最も留意しなければならない事項です。
下記の方法が一般的です。

①従来型の生命保険等を使った代償分割

②民法特例

③民法改正による10年前贈与(持戻しの対象にならない)


ただし、民法第1044条第1項後段には十分な留意が必要です。
最判平成10年3月24日(事件番号 平成9 オ2117)判決において、特別受益者への贈与と遺留分減殺の対象について下記の判断を示しています。

 民法903条1項の定める相続人に対する贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、民法第1030条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となるものと解するのが相当である。
 けだし、民法第903条1 項の定める相続人に対する贈与は、すべて民法第1044条、第903条の規定により遺留分算定の基礎となる財産に含まれるところ、右贈与のうち民法1030条の定める要件を満たさないものが遺留分減殺の対象とならないとすると、遺留分を侵害された相続人が存在するにもかかわらず、減殺の対象となるべき遺贈、贈与がないために右の者が遺留分相当額を確保できないことが起こり得るが、このことは遺留分制度の趣旨を没却するものというべきであるからである。


すなわち、10年前贈与だからといって安易に持戻し対象にならないとするのは危険です。

【改正後民法】
第1044条

1 贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものについても、同様とする。

2 第904条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。

3 相続人に対する贈与についての第1項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。



「損害を加えることを知って」の立証責任は遺留や権利者にあります。それをもって立証不可能といいきる法律家もいるようですが、ケースバイケースです。断言はできません。


・・・次回は、『【事業承継税制(特例)】要件別の細かな留意点:議決権判定、法基通9-2-32との平仄、事業事態要件の留意点等―①』をお送りいたします。



(注釈)

(注1)渋谷陽一郎「金融機関のための民事信託の実務と法務 第20回 民事信託の審査(2)」金融法務事情2019年10月10日号(no.2123)




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伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。