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■その他のみなし贈与が生じる諸論点―③
○【 みなし贈与/被相続人の債務免除により同族会社の株式等の価額が増加した場合】
相続税法64条と同様に、相基通9-2 についても、相続税や贈与税の負担を不当に減少させる結果がある場合に限って適用されるべきである旨の審査請求人らの主張が排斥され、被相続人が、生前に同族会社に対して行った各債務免除により、増加した株式等の価額に相当する金額は、各債務免除時に株主等である相続人が被相続人から贈与により取得したものとみなされるとされた事例(平成18年■■月■■日相続開始に係る相続税の各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分並びに平成16年分の贈与税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分・棄却・平22.05.12裁決)〔大裁(諸)平21-60〕
〔裁決の要旨〕
本件は、原処分庁が、被相続人が生前にした同族法人に対する債務の免除により株式又は出資の価額が増加した部分に相当する金額は、相続税法上、その株主又は社員で相続人である審査請求人甲が被相続人から生前の贈与により取得したものとみなされるとして、相続人である共同審査請求人(以下「請求人ら」という。)に対し、贈与税の決定処分等又は相続税の更正処分等を行ったことに対し、請求人らが、当該金額は贈与により取得したものとみなすべきではないとして違法を理由にその全部の取消しを求めた事案である。
原処分庁が、被相続人の各債務免除により生じた出資の増加額及び株式の増加額に相当する金額について、相続税法第9条及び相続税法基本通達9-2《株式又は出資の価額が増加した場合》(以下「本件通達」という。)を適用して決定処分及び各更正処分をしたのに対し、請求人らは、本件通達は、同族会社に限って債務免除があった場合の取扱いを示しており、相続税法第64条に規定されている同族会社に対する課税の取扱いに対応しているから、同条と同様に、本件通達についても、相続税や贈与税の負担を不当に減少させる結果がある場合に限って適用されるべきである旨主張する。
しかしながら、請求人らの主張は、要するに、本件通達に定める場合に該当するときは、相続税法第9条に基づく課税要件について、さらに、「その株主等の相続税又は贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがある」ことを課税要件として付加して解釈すべきであるとの主張にほかならないが、同条には、同法第64条とは異なり、「その株主等の相続税又は贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがある」ことを適用要件とする文言はないし、同法第9条の適用に当たり、同族会社の場合には同法第64条を準用することを定めた規定もない。
また、本件通達は、確かに同族会社の債務免除等の場合についての定めとなっているものの、その趣旨は、同族会社の債務免除等の場合は同社の株式又は出資を保有している同族関係者が債務免除等をした者から直接財産の移転等を受けた場合等と同様の「利益を受けた場合」に該当するからなどというものであり、本件通達の文言自体から見ても、相続税法第9条の課税要件に新たな課税要件を付加した定めであるとみることもできない。
したがって、請求人らの主張は採用することができない。
債務免除により会社の株主又は社員が従前から保有していた株式又は出資という財産の価額が増加した場合は、相続税法第9条に規定する「利益を受けた場合」に該当するところ、同族会社であるA社に対する被相続人の各債務免除により、甲の出資及び株式については、それぞれ増加したものと認められるから、各増加額に相当する金額については、いずれも本件通達の定めにより相続税法第9条の規定が適用され、各債務免除時において、被相続人から甲が贈与により取得したものとみなされる。
審判所認定額における贈与税及び相続税に係る納付すべき税額は、いずれも決定処分の贈与税の納付すべき税額及び各更正処分の相続税の納付すべき税額を上回るから、この金額の範囲内でされた決定処分及び各更正処分はいずれも適法である。
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税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。