前回のつづきです。
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■【株主間贈与】組織再編成―③
(4) 債務超過法人の組織再編成における株主間贈与(注1)
① 非適格合併の場合(合併法人の株主:個人、被合併法人の株主:個人)
被合併法人が債務超過である場合、被合併法人の株主に対して合併法人株式が交付されたときは、合併法人の株主から被合併法人の株主に対して株主間贈与が生じるはずです。
この論拠は相続税基本通達9-4 で想定している事象と近似の事象が生じているからともいえます。もっとも贈与税の課税対象になる金額は、被合併法人の個人株主に対して交付された合併法人株式の時価に相当する金額になりますから、軽微なインパクトになるものと想定されます。
② 適格合併の場合(合併法人の株主:個人、被合併法人の株主:個人)
適格合併に該当した場合には、被合併法人の株主に対するみなし配当や株式譲渡損益は生じません。
債務超過会社を被合併法人とする適格合併を行った場合には、交付した合併法人株式の時価に相当する金額だけ、合併法人の株主から被合併法人の株主に対する贈与があったと考えられるため、被合併法人の株主と合併法人の株主の関係が親族等であれば、相続税基本通達9-4 に従い、被合併法人の株主において贈与税が課税されると考えられます。
私見ですが、適格合併を行った後、合併法人株式の時価を下落させ、当該株式を贈与した場合に財産評価基本通達6項(通称、総則6項)が適用され、贈与税が課されるのではないかという論者もいるようですが、事実認定が極めて困難なため税務調査の現場での発動はかなり困難と考えてよいものと思慮します。
③ 合併の直前に合併法人が被合併法人の発行済株式の全部を取得する場合
無対価合併回避の方法の1 手段です。被合併法人株式の時価は0円ですから備忘価額(1円)で譲渡することで、特段の問題は生じません。
④ 平成29年度税制改正における適格分割型分割+清算スキームに係る贈与税
平成29年度税制改正により分割型分割の支配関係継続要件に変更がありました。
分割前の分割法人の支配株主(親族を含む)によって分割承継法人の発行済株式の全部を継続して保有することが見込まれているとき、100%グループ内の分割型分割に該当します(法令4の3 ⑥二ハ(1))。
したがって分割後、分割法人株式を第三者に売却しようが、解散しようが適格要件に抵触しません。
この要件緩和の結果、表題のようなスキームが散見されるようになりました。会社分割により分割法人にオーナーの貸付金を残し、それを清算して消滅させるスキームです。
このような場合、会社分割により設立された分割法人(新設法人)の時価が分割前の会社の時価よりも高くなることが通常です。
分割法人に対して債権放棄をオーナーが行った場合、分割承継法人に後継者が株主としていれば、オーナーから後継者への贈与があったものと考えられます(注2)。
(注1)佐藤信祐「債務超過会社における組織再編・資本等取引の会計・税務Q&A」中央経済社(2018年)42~43頁参照
(注2) 同注1 138~139頁参照
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税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。