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2020.05.21税務コンサルのポイント

【株主間贈与】組織再編成―②

  • 富裕層コンサルのイロハ
  • 組織再編成

前回のつづきです。 ↓前回分はこちら↓
■【株主間贈与】組織再編成―①

(2) 債務超過再編における無対価組織再編成

① 平成30年度税制改正前の債務超過再編における無対価組織再編成の留意事項
 債務超過再編においては例えば合併比率や交換比率の算定ができないことから、無対価組織再編成を選択することが実務上極めて多いと思います。また、当該選択の理由として株価算定を省略したいときもあるでしょう。
 無対価要件を間違いなく満たしている場合にはそれで全く問題ありませんが、その要件をよく確認せず無対価で行い、非適格認定を受ける事例が後を絶たないようです。
 適格無対価組織再編成が認められているのは、平成22年度税制改正後、100%関係かつ政令で認められているものに限定されます(特に「一の者」概念に留意してください)。
 ちなみに適格要件を満たさないと認定されると「非適格認定」又は「寄附受贈」となります。
 また、合併法人株式を交付すると、評価額0 の被合併法人株式とのバーターになるため、株主間贈与認定される恐れもあるのです。
 ちなみに、いうまでもありませんが、一度合併登記をした場合、合併の無効原因がない限り取消はできません。くれぐれも慎重に判断して実行してください。
 なお、合併の錯誤無効が認められた(執筆時点では唯一の)特殊なケースをご紹介しておきます。

〔参考〕名古屋地裁平成19年11月21日判決
 (平成19年(ワ)第5266号:吸収合併無効請求事件)〔金判1294号60頁〕
 A有限会社は、風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)3条に基づき、県公安委員会の許可のもとに3店舗においてパチンコ等遊技場を経営する業務を行っていた。
 Y株式会社(被告)は、平成19年8月17日、Aとの間で、Yを存続会社・Aを消滅会社とする合併契約を締結した。Yは同年9月26日の臨時株主総会で出席株主5名全員一致により、Aも同日の臨時株主総会で出席株主4名全員一致によって本件合併契約を承認し、同年10月1日に本件合併の効力は発生した。YがAの経営していた遊技場の経営を引き継ぐことは本件合併の当然の前提とされており、YがAの風俗営業者たる地位を承継しないとすると、Yの経営が成り立たない状態にあった。
 風営法7条の2は、風俗営業者たる法人が合併によって消滅する場合に存続法人が風俗営業者としての地位を承継するためには公安委員会の承認を事前に得ることを要求しているが、Aは承認を受ける手続を行っていなかった。さらに、Aの経営していた3店舗のうち1店舗は、近隣商業地域として風営法3条の許可がなされたものだが、同店舗の敷地の約1/2が第1種住居専用地域に後発的に指定されたため、新たに許可を受けることが不可能な状況にある。Yの取締役であるX(原告)は、本件合併承認決議の無効または本件合併契約の無効を理由に本件合併の無効の訴えを提起した。訴訟手続内でYは請求原因事実を認めた。
 〔判旨〕
請求認容(確定)。
「会社の組織に関する訴えに係る請求を認容する確定判決は、第三者に対してもその効力を有する(会社法838条)。かかる請求については、当事者が紛争を自主的に解決する権能(処分権主義及び弁論主義)が制限されていると解すべきであり、本件において、Yは、請求の認諾をなしえず、裁判上の自白も裁判所を拘束しない。」
「会社法51条2 項は、民法95条の特則として、特定の株主(すなわち発起人)からの無効主張を制限することを規定するものであり、認容判決が対世効を有する設立無効の訴えの制度(会社法828条1項1号、838条)と相俟って会社の成立が不安定の状態に置かれることを防止している。したがって、会社法51条2項の目的は、究極的には取引の安全、すなわち、他の株主、会社債権者を含めた関係者の保護にあると解される。
 …存続会社であるYが消滅会社であるAの経営していた遊技場の経営を引き継ぐことは本件合併の当然の前提であったにもかかわらず、Aが本件合併前に風俗営業法7条の2に規定する公安委員会の承認を受ける手続を行っていなかったことにより、Yが、現時点で、合法に遊技場経営をなすことができず、かつ、1 店舗については、今後も、Y自身が、Aと同様の営業許可を取得することが困難であるという事情がある。
 かかる事情があるにもかかわらず、会社法51条2項の類推適用により、錯誤無効の主張を制限することは、Yの営業価値を著しく毀損する結果につながることは明らかであり、合併前の各会社の株主はもとより、各会社の債権者にも重大な損害を発生させることになる。
 したがって、本件において、会社法51条2 項を類推適用すべきではなく、Xにおいて、本件合併契約の錯誤無効を主張することは許される。」



 判示と登記実務上のポイントまとめると下記となります。吸収合併を前提とします。まずは、登記実務上の理由についてです。会社法第828条第1項第7号により吸収合併の無効は、訴えをもってのみ主張することができるため、吸収合併の無効による抹消の登記は、判決に基づいて裁判所からの嘱託によらなければならなりません。役員変更登記などと違い、当事者が申請によってどうにかできる登記ではありません。
 なお、無効できる事由は会社法上明記されていませんが、無効となる原因については、合併手続の瑕疵に限定されると解されています。
 例えば合併契約の内容自体が違法、必要な承認決議が無い、債権者保護手続き等法律の定める手続が行われていない、合併の認可が必要なのに欠いている等の瑕疵がそれにあたると言われています。
 錯誤無効の主張が通るか否かですが、株主や会社債権者など多くの関係者が存在するので、錯誤を理由とする合併契約の無効の主張も、合併の登記がなされた後は、会社法第51条第2項の類推によって制限されるべきと解されています。
 なお下記の通り、錯誤により合併契約が無効であることを主張できないとすると、営業価値が著しく棄損され、利害関係者にも重大な損害を発生させることになる場合には、錯誤を理由とした合併無効の余地があります。




 ・・・つづきは次回、『【株主間贈与】組織再編成―③』でお送りいたします。






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伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。