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2020.04.02税務コンサルのポイント

【株主間贈与】自己株式の取得―⑤

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前回のつづきです。 ↓前回分はこちら↓
■【株主間贈与】自己株式の取得―④


所得税法第59条第1項第2号(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)
 次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があったものとみなす。
二 著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)

所得税法施行令第169条(法人に対するものに限定)(時価による譲渡とみなす低額譲渡の範囲)
 法第59条第1項第2号(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)に規定する政令で定める額は、同項に規定する山林又は譲渡所得の基因となる資産の譲渡の時における価額の2分の1に満たない金額とする。



 所得税法では、政令で時価の1/2未満と明らかにしているが、相続税法7条では所得税法にいうような基準は明確でなく、解釈に委ねられています。そのためこれに関連する裁判例も多数あるわけです。
 また、「低い」「高い」という判断の前提となる「時価」をどのように認識するのか明らかにする必要があります。
 みなし譲渡の所得税法第59条、課税上の財産の評価を定める相続税法第22条の「時価」と同第7 条の「時価」の解釈が錯綜している場面です。
 所得税法は第59条、所得税法施行令第169条で時価の1/2未満を著しく低い価額としています。従って、みなし譲渡発動の可能性により1/2未満にするのは不得手です。論点になるのは時価の80~60%程度の場合「著しいか」ということです。
 結論は先ほど提示した株価算定書に示しました。私見ですが筆者が税理士からご相談を受けるときは80%程度を目途としています。
 申告後のご相談にのることもあります。
 これは個人⇒法人間売買を相続税評価額で行った場合、すなわち誤った評価で売買した場合、のちに所得税基本通達59-6(もしくは時価純資産価額)で売却すべきであったと気付いたケースです。
 この場合、原則として所得税基本通達59-6で評価し直し、相続税評価額との差額について譲渡所得税等の修正申告をすることになります。しかし、その金額があまりに大きな場合、納税者に示しがつきません。
 緊急避難的な措置となりますが、所得税基本通達59-6で計算した金額をいくらかダンピングして計算するということです。
 当該ケースは特に相続金庫株の場合に頻繁に見受けられます。相続税申告で用いた相続税評価額でそのまま金庫株をしてしまった場合です。実務上、十分ご留意ください。
 ちなみに、実務上どれだけダンピングするかは会計事務所によってかなり方針が異なるようです。大手事務所で所得税基本通達59-6での価額100%でしか株価算定書を出さないところもあれば、ある大手事務所では、まれに、みなし譲渡に該当しないギリギリの51%で評価するところもあるようです。
 なお、同族会社との取引については、意図的に譲渡価額を操作して所得税の負担を軽減させようとすることがあり得ます。
 そこで、同族会社との取引について所得税の負担が不当に減少する結果となるときは、税務署長が計算をすることができることになっています(所法157①、所基通59-3 )。
 ただし、これは行為計算否認規定です。よほど著しい低い価額でなければ実務上発動することはないと思われます。
 また、法人に受贈益が生じますが、それを繰越欠損金と相殺させたい等意図的な行為を作出した場合には、指摘軸に該当すると思われます。
 なお、みなし贈与(相基通9-2)とみなし譲渡益課税(所法59①)は当然のことながら重ねて課税されます。両者は別趣旨の規定だからです。
 論者によっては上記に「みなし配当」を加え、「トリプル課税」と名付けている方もいらっしゃいます。
 さて、ここまで見てきたところで先ほどの株価算定書パターン1~パターン3までどれを採用すべきか検証してみます。
 対税務調査を考えると(パターン1)か(パターン2)が良いと思慮します。(パターン3)はいわゆる「カンペ」です。
 相続税の申告書作成においても同様の鉄則がありますが、「当初申告時にはなるべく無駄な資料は添付しない」というのがあります。
 理由は当局審理室をかえって混乱させるからです。このような「藪蛇」を避けるためにも(パターン3)のような初めから整然とした算定書は提出しない方が賢明でしょう。
 最後に最も重要な留意点です。上記のダンピング幅は金額の絶対値経済的利益を受けた側の背景や諸事情等も総合勘案して決定しなければならないということです。税務調査の現場では他の指摘事項との兼ね合いも出てくることでしょう。
 当然のことながら金額の絶対値が高額になればなるほどダンピング幅も減少した方がよいということは十分留意してください。

(3) 「著しく低い価額」の明文規定
 下記に列挙しておきます。ご参照ください。
・法人税法施行令119条(有価証券の取得価額)
・法人税基本通達2 ― 3 ― 7 (通常要する価額に比して有利な金額)
・所得税法39条(たな卸資産等の自家消費等の場合の総収入金額算入)
・所得税法40条(たな卸資産等の贈与等の場合の総収入金額算入)
・所得税基本通達39― 1 (家事消費又は贈与等した場合の棚卸資産の価額)
・所得税基本通達40― 2 (著しく低い価額の対価による譲渡の意義)
・所得税基本通達40― 3 (実質的に贈与したと認められる金額)
・租税特別措置法関係通達37条の10、37条の11共―22
・国税徴収法基本通達第39条関係7
  第39条関係 無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務
  納税義務の成立
  (著しく低い額の対価の判定)

7 法第39条の「著しく低い額の対価」によるものであるかどうかは、当該財産の種類、数量の多寡、時価と対価の差額の大小等を総合的に勘案して、社会通念上、通常の取引に比べ著しく低い額の対価であるかどうかによって判定し(昭和44.7. 2 松山地判、昭和48.11.29東京高判、平成2 . 2 .15広島地判、平成13.11. 9 福岡高判、平成21.11.12東京高判参照)、次のことに留意する。
(1) 一般に時価が明確な財産(上場株式、社債等)については、対価が時価より低廉な場合には、その差額が比較的僅少であっても、「著しく低い額」と判定すべき場合があること。
(2) 値幅のある財産(不動産等)については、対価が時価のおおむね2分の1に満たない場合は、特段の事情のない限り、「著しく低い額」と判定すること。ただし、おおむね2分の1とは、2分の1前後のある程度幅をもった概念をいい、2 分の1 をある程度上回っても、諸般の事情に照らし、「著しく低い額」と判定すべき場合があること。





 ・・・つづきは次回、『【株主間贈与】自己株式の取得―⑥』でお送りいたします。






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伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。