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2020.03.19税務コンサルのポイント

【株主間贈与】自己株式の取得―④

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前回のつづきです。 ↓前回分はこちら↓
■【株主間贈与】自己株式の取得―③


 まずは前回分であげた昭和53年5 月11日裁判例です。

○大阪地裁昭和53年5 月11日判決
【非上場株式の時価/「低額譲受け」と「著しく低い価額」】
 大阪地裁昭和45年(行ウ)第38号法人税贈与税更正処分取消等請求事件(一部取消し)(確定)〔税務訴訟資料第101号333頁〕
 (判決要旨)
 一般に財産の時価とはその財産の客観的交換価値をいい、当該財産につき不特定多数の当事者間における自由な取引において時価が成立する。株式の場合も、証券取引所に上場されている上場株式あるいは店頭で売買されている気配相場のある株式については、市場を通じて不特定多数の当事者間の自由な取引により市場価格が成立し、これをもって時価とするのが相当であり、また非上場株式であっても、現実に売買が行なわれ、その売買実例が当該株式の客観的交換価値を適正に反映していると認められれば、その売買価額が時価とされる。
 非上場株式の時価評価について種々の方式があり、それぞれ評価の目的に応じて選択適用さるべきであるが、元来取引実例の乏しいかあるいは本件のように全くない株式について時価を評価しようとするのであるから、各方式に長所短所がある以上、そのうちの一方式のみを選んで評価を行なうことには疑問がある。従って、各方式のうち、本件株式の評価に最も合理性があると認められる収益還元方式、純資産処分価額方式により評価を行ない、次いで或程度合理性ありと認められる純資産時価方式、併用方式(類似業種比準方式と純資産時価方式の併用)により評価を行なったうえ、それらの平均値(単純平均および合理性のより高い収益還元方式、純資産処分価額方式に重い評価を与えた加重平均)をもって本件における適正な時価とするのが妥当である。
 原告らは、訴外乙から原告会社への本件株式の譲渡価額が時価より低いとしても、そもそも非上場株式の株価の時価評価には困難がつきまとうから、現実の譲受価額が時価に比し著しく低いとしてその差額が原告会社の所得の計算上益金に算入されるのは時価の2分の1に満たない場合に限られるべきである旨主張する。
 しかしながら、法人がある資産を時価より低額で譲受けた場合に時価と譲受価額との差額について無償による財産の取得があったものと考えられるにもかかわらず、これを放置することは租税負担の公平を失することになるから、現実の譲受価額が時価より「著しく」低いか否かを問わず、譲受価額と時価との差額について無償による財産の取得があったものとみなし、法人税法22条2項により各事業年度の所得の計算上益金に加算すべきことは当然である。
 原告会社が本件株式を時価に比し低い価額で譲受けた結果、譲受価額と時価との差額に相当する金額が原告会社のかくれた資産となり、同社の純資産額が増加したこと、原告会社の株式は純資産増加分だけ価値を増し、従って原告会社の株主は株式の持分数に応じその保有する株式が価値を増したことによる財産上の利益を享受したこと、原告甲も原告会社の発行済株式総数800株中730株を所有する株主として、原告会社の純資産が増加したことに伴わない、所有株式の割合に応じた財産上の利益を享受したことが認められる。そして本件株式の譲渡が訴外乙から原告甲に対しB会社の経営支配権を移転することを目的としており、右譲渡により原告会社の大半(800分の730)の株式を所有する原告甲は、B会社の株式を間接的に所有する結果となったことに照らすと、原告甲が財産上の利益を得たと認められる限度において訴外乙から原告に対し贈与があったものとみなすのが相当である。
 法人税法においては、時価よりも低額による資産の譲受があった場合に、それが時価より「著しく低い」か否かを問題にすることなく、時価と譲受価額との差額は当然に所得の計算上益金に算入されると解すべきものであるが、これに対し、相続税法7 条、9 条は対価をもって財産の譲渡を受けた場合、「著しく低い」価額の対価で財産の譲渡があったときに限り、時価と対価との差額に相当する金額を贈与により取得したものとみなされる旨規定しており、従って取得財産の時価に比し対価が「著しく低い」といえない場合には贈与税はこれを課さないものと解されるのである。
 この点において法人税法と相続税法(贈与税を含む)の考え方に差異があるとしても元来それぞれの法の対象とする租税の性質目的等が異なる以上やむをえないところであるといわなければならない。
 資産一般についてはともかく、本件のごとき非上場株式について、贈与税における時価より「著しく低い」価額とは、時価の4分の3未満の額を指すと解するのが相当である。



(参考)
 この裁判例は批判的な意見が多くあります。判示の4 分の3 は何の根拠もないというのがその理由です。
 しかし、税務調査の現場では低額譲渡事案において、この裁判例を持ち出し、当局とうまく交渉できた事例もあるようです。

○大阪地裁昭和61年10月30日判決
 大阪地裁昭和59年(行ウ)第153、155~158号贈与税等賦課決定処分請求事件(棄却)(原告控訴)
 (判決要旨)
 相続税法7 条にいう時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうと解される。
 相続税財産評価に関する基本通達が取引相場のない同族株主のいる大会社の株式について株式取得者の事実上の支配力の有無により類似業種比準方式又は配当還元方式によることとしている理由は、右会社のすべての株式価額は本来類似業種比準方式により算定されるべきであるが、これには多大の労力を要しかつ一般的に算定価額がかなり高額になることから、持株割合が僅少で会社に対する影響力を持たず、ただ配当受領にしか関心のないいわゆる零細株主が取得した株式について右方式により算定することは適当でないため、このような株主の取得する株式の評価は特例として簡便な配当還元方式によるものとしたことにあると考えられ、従って、1 つの評価対象会社につき2 つの株価を認めた訳ではなく、あくまで当該株式の時価は類似業種比準方式により算定される価額によるものというべきである。なお、右のような取扱いの結果、零細株主は時価より低い評価額で課税され利益を得ることとなるが、前記のような合理的理由に基づく以上、右取扱いを違法とまでは断じ難い。
○大阪高裁昭和62年6 月16日判決
 大阪高裁昭和61年(行コ)第45号贈与税等賦課決定処分取消控訴事件(棄却)(控訴人上告)
  昭61.10.30大阪地裁と同旨。
○【親族間の譲渡とみなし贈与/「著しく低い価額」の対価とは】
 東京地裁東京地方裁判所平19. 8 .23平成18年(行ウ)第562号贈与税決定処分取消等請求事件(全部取消し)(確定)(納税者勝訴)国側当事者・国(目黒税務署長)〔税務訴訟資料 第257号―154(順号10763)〕
 事例、評釈は第1 章、第2 章及び第4 章をご参照ください。
○【贈与財産の範囲/資産の低額譲受け】
 請求人が父から売買契約により譲り受けた土地の対価は、当該土地の時価に比して著しく低い価額であると認められ、相続税法第7 条の規定により贈与があったものとした事例(平成4 年分の贈与税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分・一部取消し)(平13.4.27裁決)〔裁決事例集第61集533頁〕
 裁決要旨は第2 章●●頁をご参照ください。
○【資産の低額譲受け】
 土地建物の譲受価額が相続税法第7 条に規定する「著しく低い価額の対価」に当たるとしてなされた原処分は違法であるとした事例(平成12年分贈与税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分・全部取消し)(平15.6.19裁決)〔裁決事例集第65集576頁〕
 裁決要旨は第2 章●●頁をご参照ください。



 先に留意点を述べておきますが、個人⇒法人間の非上場株式における金庫株事案について低額譲渡事案においては、資本等取引を用いた利益の移転、すなわち経済的な取引には当たらないということです。自己株式の取得(金庫株)は純然たる資本等取引であり、法人自体には益金又は損金を認識する必要はありません。これは平成18年の会社法改正により明確にされたところです。いまだに多説を展開される方も多いようですが、実務上はこの考え方で問題ありません。
 しかし、個人⇒法人間移動においても金庫株以外の低額譲渡であれば、法人に受贈益が生じますのでご留意ください。
 さて、上記の裁判例等を総合勘案して、「著しく低い価額の対価」とはどの程度に低いかというのが問題となります。



・・・つづきは次回、『【株主間贈与】自己株式の取得―⑤』でお送りいたします。






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伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。