MENU MENU

COLUMN

2020.02.04M&A事例

小さくても売れる会社の共通点とは?―②

  • M&A

前回のつづきをお送りいたします。 前回はこちら


文中の記載には私見が含まれていることをあらかじめご了承ください。

 助言のため秘密保持契約を結ぶのと同時にプレでビジネスデューデリジェンスを行い、対象会社の潜在的な「強み」を洗い出しました。
M社が当該地域において2,000社を超える取引口座が有り、地域ではナンバーワンのシェアを維持していることがわかりました。
地域経済の疲弊は甚だしいものがありましたが、小口ながら取引口座数と地域のシェアは魅力的で、このことを強みとして企業概要書に明記しました。
株式価値の算定では、中小企業の株式価値算定で一般的な類似比較会社法も検討しましたが、営業損益が過年度で赤字、EBITDA(営業利益+減価償却費)もマイナスのため、時価純資産での算定としました。
結果、株式の譲渡価格については、時価純資産相当でオーナー社長に納得いただきました。
唯一の条件は、従業員の雇用と待遇の維持でした。

 20××年4月、私たちは、売手のオーナー社長の要望と会社の強みを理解いただけそうで成長の可能性が想定される同業者を中心にロングリストを作成し、買手探しを始めました。

 DMと電話という直接提案型の営業で買手候補探し始めたところ、上場したばかりの事務機器販売のN会社が関心を示してくれ、早々に秘密保持契約を締結してネームクリア、そして、20××年6月にトップ面談まで順調に進みました。
しかし、ここで落とし穴がありました。
N社の窓口が稚拙な交渉相手で、自社の我を通して来ました。従業員の雇用と待遇の維持を前提としていたにも関わらず、事務機器販売の他にやっていた文具卸のリストラの提案でした。この点は、売手のオーナー社長の譲れない一線でした。
結果、20××年7月中旬、上場企業からの価格提案は、時価純資産よりも高い価格でしたが、断念しました。
M&Aのリスクばかりに目が行ってしまい、中小企業のM&Aが「人と人との相性」であるということを忘れ、M社の弱みに注目してしまったことが失敗の原因でした。

 あらためてロングリストを作成し、アプローチを再開したところ、東京の城東地区で急成長している事務機器販売のF社に出会いました。秘密保持契約を締結し、20××年8月下旬にトップ面談を行いました。

 トップ面談の夜、買手の社長との電話で、
 「今日の会社は、経営者が変わって、社内のモチベーションを改善出来れば、取引口座数もあるし、地域ではブランドもあり、成長の可能性はあるように感じたけど、君の意見はどうだい」
 「社長の認識と一緒です。私も失礼ながら経営陣が高齢化し、従来のやり方が変えられず、経営の活力が低下したことが売上低迷の原因だと思います。50代の社長なら十分に活力を回復させることは可能ですし、対象会社の持っている取引口座数等のポテンシャルを生かせると考えます。」
社長から「是非、進めたいと思うが」との返答をいただき、価格も売手の希望を尊重いただき本件が実質的に決まりました。
その後、9月中旬に基本合意書を締結できました。

 基本合意から最終契約までの期間は、売手のオーナー社長にとっては買収監査もあり慌ただしい期間でもありますが、同時に不安との戦いの時間でもあります。
このケースでも、買収監査の状況、東京の会社は変化が速いが社員は大丈夫か、経営が急激に変わって社員はついて行けるだろうか等の不安から、オーナー社長と何度も長電話をしました。

 無事に買収監査も終わり、10月末に最終契約の締結、同時にクロージングしました。

 今回のケースは、現状の業績が厳しいにも関わらずF社がM社のもつ無形資産である取引口座数とシェアという強みを評価してくれたことが決め手でした。
F社は、単に事務機器を売り切るのではなく、機器の使用に必要な情報やノウハウを毎月定額制でサポートする、サービスで毎月の固定収入を得るという発想で急成長した会社で、M社の取引口座数は本当に魅力的だったのです。

 そして、売上が低迷し、従来の販売方法で行き詰まっていたM社にとっては成長の可能性があり、従業員の雇用も守ることが出来る相手でした。
結果的に無形資産を評価いただき、時価純資産よりも高い金額で購入いただくことに成功、
売手のオーナー社長も銀行借入の不安から解放され、役員退職金も得られ、M社は買収から半年で売上が大幅に伸長したとのことです。

■今回のケースで買手が評価した点
・取引口座数と地域でのシェアがあったこと
・オーナー社長が商工会議所の役員で地域でのブランドがあったこと
・その上で、自社サービスとのシナジーが想定できたこと





あわせて読みたい!
小さくても売れる会社の共通点とは?M&Aにおける価値(バリュー)と価格(プライス)という考え方関与先様の事業承継対策にもどうぞ ― 日税M&A総合サービス



株式会社日税経営情報センター