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COLUMN

2019.03.20税務コンサルのポイント

31年度税制改正大綱 資産課税~相続税・贈与税を一括して~ その2

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■(中小・個人向け・納税者不利)特定事業用宅地等に係る小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の見直し

 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例について、特定事業用宅地等の範囲から、相続開始前3年以内に事業の用に供された宅地等(当該宅地等の上で事業の用に供されている減価償却資産の価額が、当該宅地等の相続時の価額の15%以上である場合を除きます。)を除外することとされました(大綱P44~)。

(注)上記の改正は、平成31 年4月1日以後に相続等により取得する財産に係る相続税について適用されます。ただし、同日前から事業の用に供されている宅地等については、適用しないこととなりました。


(参考・コメント)

○貸付事業用の小規模宅地特例(30年度改正項目)みたく節税を目的とした駆け込み的な適用など、本来の趣旨を逸脱した運用を防止するために設けられた措置です。

○現行の小規模宅地等の問題点である

・事業継続要件がない

⇒相続後の宅地を短期間で売却することも可能(平成29年11月会計検査院報告)

・債務控除の濫用が可能

⇒個人事業者の債務には事業用・非事業用の区別がないため、事業用宅地等の購入のために行った借入に係る債務を、非事業用資産と相殺(債務控除)することが可能。そのため、事業と無関係な資産にまで節税効果が及びます。

(例)事業用宅地等 1億円を全額借入金(1億円)で取得、他に非事業用資産 1億円があるとする。
 課税価格は2,000万円
 事業用宅地等  1億円×20%=2,000万円
 非事業用資産  1億円
 債務控除   △1億円
 ※当該問題点についてはタワーマンション節税でも同様です。

・事業を承継しない相続人への税額への波及については同様の問題がある貸付事業用宅地等とあわせて今後の課題とされています。



<大綱P6~>
・・・、現行の事業用の小規模宅地特例について、貸付事業用の小規模宅地特例の例にならい、節税を目的とした駆け込み的な適用など、本来の趣旨を逸脱した適用を防止するための最小限の措置を講ずる。その上で、本特例については、相続後短期間での資産売却が可能であること、債務控除の併用等による節税の余地があること、事業を承継する者以外の相続人の税額に効果が及ぶことなどの課題があることを踏まえ、事業承継の支援という制度趣旨を徹底し、制度の濫用を防止する観点から、同様の課題を有する貸付事業用の小規模宅地特例とあわせて、引き続き検討を行っていく。

 このため現時点においても「相続開始後10か月経過したら売却してよい」とのアドバイスとのアドバイスは今後可能な限り控えるべきです。

○特定事業用宅地等に該当しない恐れがあるかどうかの早めの判定を講ずる必要があります。

仮に該当しない恐れがある場合、資産を再編し、特定同族会社事業用宅地等の適用を検討するか、新設の個人版事業承継税制の適用を検討するかのいずれかが有利になります。


伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。