1. はじめに
相続税は、納期限までに金銭で一時に納付することが原則です。しかし、例外として、相続税の納税資金が不足する場合、一定の条件のもとに「延納」と「物納」という猶予制度を適用することができます。
実務上目にすることはあまり多くないこれらの制度ですが、金銭で一時に納付することが困難である場合は、選択肢の一つとして検討することをお勧めします。
本稿においては、「延納」と「物納」の2つの制度の概要について整理した上で、どのように検討を行うべきであるかを確認したいと思います。
2. 延納
(1)延納とは
延納制度とは、相続税額が10万円を超え、金銭で納付することが困難である場合に、一定の条件のもとに「年賦で相続税を納付」することを認める制度です。
(2)適用要件
延納の適用を受けるためには、次の4つの要件すべてを満たす必要があります。
①相続税額が10万円を超えること。
②金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額の範囲内であること。
③延納税額及び利子税の額に相当する担保を提供すること(ただし、延納税額が100万円以下、かつ、延納期間が3年以下の場合には担保提供不要)。
④相続税の納期限までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して提出し、税務署長の許可を受けること。
①延納によっても金銭で納付することが困難であること。
②物納できる財産があること(下記(3)の「物納できる財産」に該当し、かつ、下記(4)の「管理処分不適格財産」に該当しないこと)。
③相続税の納期限までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して提出し、税務署長の許可を受けること。
●分割協議が終了していない場合、遺留分減殺請求が行われている場合等の相続財産の所有権の帰属が確定していない財産
●担保権が設定されている不動産
●譲渡制限がある非上場株式(譲渡制限を解除するか、株主総会または取締役会により譲渡に関する承認が必要) 他
ひのき共同税務会計事務所/芝オフィス代表 税理士平成13年早稲田大学社会科学部卒。デロイトトーマツ税理士法人、太陽グラントソントン税理士法人を経て現職。国内上場企業及び外資系企業に対する税務申告業務から、連結納税コンサルティング業務、事業再編・M&Aに係る税務精査業務、ストラクチャー検討業務、オーナー企業に対する事業承継支援業務などに従事。著書に「中小・オーナー企業の国際税務」(中央経済社)、「第6版 詳解 連結納税Q&A」(共著・清文社)がある。