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COLUMN

2019.02.21税務コンサルのポイント

31年度税制改正大綱 資産課税~相続税・贈与税を一括して~ その1

  • 資産税の落とし穴
  • 税制改正
  • 資産税
  • 事業承継税制

 平成31年度税制改正大綱の「二 資産課税」の中から、「1 個人事業者の事業用資産に係る納税猶予制度の創設等」の部分について見ていきます。

■個人事業承継税制と法人事業承継税制との比較表

個人事業承継税制法人事業承継税制
適用期間2019年1月1日~2028年12月31日2018年1月1日~2027年12月31日
承継計画提出期間2019年4月1日~2024年3月31日2018年4月1日~2023年3月31日
認定申請詳細は検討中相続開始の日から8か月以内(相続)
対象資産事業用土地(借地権含む)(400㎡)
建物(800㎡)(※1)
減価償却資産
株式
対象業種個人事業主
※医師、士業、農家等も可(※2)
一定の中小企業者
納税猶予割合100%(事業用の債務を控除した額が納税猶予の計算の基礎)100%
全額免除規定

●認定相続人が、その死亡の時まで、特定事業用資産を保有し、事業を継続した場合

●認定相続人が一定の身体障害等に該当した場合

●認定相続人について破産手続開始の決定があった場合

●相続税の申告期限から5年経過後に、次の後継者へ特定事業用資産を贈与し、その後継者がその特定事業用資産について贈与税の納税猶予制度(後述)の適用を受ける場合

経営承継相続人等が死亡した場合等
一部免除規定

●同族関係者以外の者へ特定事業用資産を一括して譲渡する場合

●民事再生計画の認可決定等があった場合

●経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合において、特定事業用資産の一括譲渡又は特定事業用資産に係る事業の廃止をするとき

一定の場合
猶予税額の納付

●認定相続人が、特定事業用資産に係る事業を廃止した場合等

・・・猶予税額の全額を納付

●認定相続人が、特定事業用資産の譲渡等をした場合

・・・その譲渡等をした部分に対応する猶予税額を納付

一定の場合
利子税年3.6%が原則
※当初5年間は利子税がかからないとの考え方がない。
年3.6%
※当初5年間は利子税はかからない。
税務署等への報告相続税の申告期限から3年ごとに1回
※経営承継期間という考え方がない
※都道府県への届出は検討中
経営承継期間内は毎年1回
以降3年に1回
(※1)家事按分の考え方が現時点では不明です。
(※2)農地等の納税猶予との併用が可能です。

(参考・コメント)

○(相続税)③ロ(ハ)「経営環境の変化を示す一定の要件がある場合において」ですが、法人事業承継税制と同様の要件になると思われます。しかし、例えば法人事業承継税制の場合、経営環境の悪化と株価の下落はある程度連動する理解ができますが、個人事業用資産の連動は実務上の想定が難しい可能性があります。このあたりをどのように計算していくかが不明です。


○(相続税)⑥ハ個人医業者の取扱いが不明です。現行では、個人医業者が法人成すると持分なし医療法人になります。そうすると株式等の継続保有要件に該当しないことになります。個人医業者の法人成りについては今後の制度改正も含めて注視が必要です。


○(相続税)債務控除できる事業用債務の額からは明らかに事業用でないもの(住宅ローン、教育ローン等)が除かれます。


○(相続税)⑥ホ公益社団法人日本医師会は今回の改正大綱について個人事業承継税制を歓迎すると表明しています。個人医業者に対してのアカウンタビリティーは必須と考えます(個人歯科医についても同様と思慮します)。

 (参考)https://www.med.or.jp/nichiionline/article/008311.html

○(相続税)遊休不動産を第三者に賃貸すること等による節税策を防止するために、法人の事業承継税制における資産管理会社要件を踏まえた要件設定等、所要の措置を講ずる模様です。
 不動産貸付業等は除かれますが、現行の特定事業用宅地等と同様の範囲(判定)になるか不明です。


○(相続税)法人の事業承継税制と比較すると

 ⇒利子税の5年経過後の軽減措置がない?(大綱では記載されておりませんが、整合性が要求される点だと思われます)。

 ⇒継続届出書が法人の場合、「当初5年間は年1回」というのがあるが、相続開始から3年に1回となっている
等々に特徴的な点があります。


○(相続税)小規模宅地等のうち特定事業用宅地等と併用不可ですが、特定居住用との併用関係は不明です。また貸付事業用との併用の可否、その場合の計算方式も不明です。また、選択同意書に後継者もサインを要するのかも不明です。


○(贈与税)「④ 贈与者の死亡時には、特定事業用資産(既に納付した猶予税額に対応する部分を除く。)をその贈与者から相続等により取得したものとみなし、贈与時の時価により他の相続財産と合算して相続税を計算する」とあるように贈与時からの時価下落リスクに留意しなければなりません。当然、生前贈与の場合には不動産取得税、登録免許税が課税されますし、減価償却資産に至っては、相続時まで当然減価していきます。そういった点を制度的に担保しないと、事実上「使えない制度」になる可能性はあります。


○(贈与税)推定相続人以外にも相続時精算課税の適用が可能ですが、現行法人事業承継税制と同様の問題点が生じる可能性があります。


○(贈与税)2028年に贈与税の納税猶予を受けた認定相続人は、相続税の納税猶予の適用を受けることができるか不明です。


○(贈与税)法人の事業承継税制では目玉であった複数贈与・複数受贈の考え方が個人版でも採用されるか不明です。

伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。