12月14日に自民党から「平成31年度税制改正大綱」が公表されました。今回の税制改正では、2019年10月に行われる消費税10%引上げに伴う反動減対策が重視され、また一方で、政府の掲げる「生産性革命」と「人づくり革命」を最優先にし、これらを後押しする内容が盛り込まれました。目玉となる内容としては、法人課税では研究開発税制の拡充、個人所得課税では住宅ローン控除の拡充、資産課税では世代交代が進むよう個人事業者のための事業承継税制が創設された点です。今回の税制改正の主要論点をズバリ解説します。
( 増税 減税)
※税制改正大綱における元号表示は和暦ですが、この速報では便宜上、西暦を併記しております。
■法人課税
法人課税では、「生産性革命」実現の後押しとなる研究開発税制の拡充が図られました。中小企業対策については、適用期限を迎える措置を延長し、引き続き積極的な設備投資等における税制支援を行うことになりました。
項目 | 内容 | 適用期日等 | ||||||||
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研究開発税制 【延長・拡充】 | ○研究開発税制の改組の概要 1.高水準型は廃止し、研究開発費が高い水準の企業に対する控除率の割増措置は、総額型に統合 2.総額型の税額控除率の見直しにより試験研究費の増加割合が高くなると税額控除率が増加 3.総額型の限度割合を、研究開発を行う一定のベンチャー企業について40%(現行:25%)に引き上げ 4.オープン・イノベーション型について特別試験研究費の対象範囲の拡充と限度割合を10%(現行:5%)に引き上げ | 平成31(2019)年4月1日以後に開始する事業年度 | ||||||||
災害に対する事前対策のための設備投資税制 (中小企業者等) 【新設】 | ○災害への事前対策を強化するため、特定事業継続力強化設備等※を取得等して、事業の用に供した場合には、取得価額×20%の特別償却を適用 【適用要件】 1.青色申告書を提出する中小企業者等であること 2.中小企業経営強化法の改正法に基づく事業継続力強化計画又は 連携事業継続力強化計画(仮称)の認定を受けること ※特定事業継続力強化設備等 災害への事前対策に必要な、事業継続力強化計画又は連携事業継続力強化計画(仮称)に記載された機械装置、器具備品及び建物付属設備のうち、次の金額以上のもの
| 中小企業経営強化法の改正法の施行日~平成33(2021)年3月31日までの間 | ||||||||
仮想通貨の評価方法 | ○法人税における仮想通貨の評価方法について、時価法を導入する 1.法人が事業年度末に有する仮想通貨のうち、活発な市場が存在する仮想通貨については、時価評価により評価損益を計上する 2. 法人が仮想通貨の譲渡をした場合の譲渡損益については、その譲渡にかかる契約をした日の属する事業年度に計上する 3. 仮想通貨の譲渡に係る原価の額を計算する場合における一単位当たりの帳簿価額の算出方法を移動平均法又は総平均法による原価法とし、法定算出方法を移動平均法による原価法とする 4. 法人が事業年度末に有する未決済の仮想通貨の信用取引等については、事業年度末において決済したものとみなして計算した損益相当額を計上する | 平成31(2019)年4月1日以後に終了する事業年度 | ||||||||
納税環境整備 その他 | ○法人設立届出書及び外国普通法人となった旨の届出書について、定款等の写し以外の書類の添付を要しない ○租税特別措置法(法人税)における「中小企業者等」の定義の見直しが行われる(「みなし大企業」の範囲の適正化が図られる) | 適用日等の具体的明記なし | ||||||||
主要規定の延長措置 | ○中小企業者等の法人税の軽減税率(所得金額年800万円まで15%)の特例制度 ○中小企業投資促進税制 ○中小企業経営強化税制 ○商業・サービス業・農林水産業活性化税制 ※要件追加:売上高又は営業利益の伸び率が年2%以上となる見込であることについて認定経営革新等支援機関の確認を受けること | 平成33(2021)年3月31日まで2年延長 |
項目 | 内容 | 適用期日等 | |||||||||
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子供の貧困に対応する税制措置 | 〇未婚のひとり親※に対する個人住民税を非課税とする ※未婚のひとり親の要件 現に婚姻していない又は配偶者の生死が明らかでない児童扶養手当の支給を受けている児童の父又は母で、前年の合計所得金額が135万円以下の者 | 平成33(2021)年度分以後の住民税について適用 | |||||||||
住宅ローン減税 【拡充】 | ○消費税率10%の住宅を取得した場合の住宅ローン控除特例の創設 1.特例は原則の控除期間(10年)より3年延長され13年間となる 2.11年目以降の3年間は控除額に上限が設定される <住宅ローンに係る税額控除額>
| 平成31(2019)年10月1日~ 平成32(2020)年12月31日までの間に居住の用に供した場合 | |||||||||
空き家に係る譲渡所得の特別控除 【延長】 | ○相続取得の空き家の譲渡所得について3,000万円の特別控除を4年延長 | 平成35(2023)年12月31日までの譲渡 | |||||||||
〇空き家となる被相続人の居住用家屋の居住要件において老人ホーム等に入所をしたことによるケースも認める | 平成31(2019)年4月1日~平成35(2019)年12月31日までの譲渡 | ||||||||||
仮想通貨の計算方法 | 〇期末において有する仮想通貨の価額は、移動平均法又は総平均法により算出した取得価額をもって評価した金額とする | 平成32(2020)年分以後の所得税から適用 | |||||||||
ふるさと納税の見直し | 〇過度な返礼品を送付し、制度の趣旨を歪めているような地方公共団体については、ふるさと納税(特例控除)の対象から外す 〇ふるさと納税(特例控除)の対象となる地方公共団体は次の全ての要件を満たし、総務大臣が指定することになる 1.寄附金の募集を適正に実施する地方公共団体 2.返礼品の返礼割合を3割以下とする 3.返礼品を地場産品とする | 平成31(2019)年6月1日以後に支出された寄附金について適用 | |||||||||
森林環境税・譲与税(仮称)の創設 | 〇森林環境税(仮称) 国内に住所を有する個人に対して課税され、税率は年額1,000円 | 平成36(2024)年から課税 | |||||||||
〇森林環境譲与税(仮称) 森林環境税(仮称)の収入額に相当する額が、市町村及び都道府県に対して、森林環境譲与税(仮称)として譲与される | 平成31 (2019)年から譲与 |
項目 | 内容 | 適用期日等 | ||||||||||||||||||||||||
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個人事業者に対する事業承継税制の創設 | ○個人事業者の事業用資産に係る相続税の納税猶予制度 後継者が、相続により特定事業用資産を取得し事業継続していく場合、相続税のうち特定事業用資産に対応する部分の税額を猶予する
【相続税の猶予制度の注意点】 本税制の適用を受ける場合は、小規模宅地等(特定事業用宅地等)の減額特例を受けることができない ○個人事業者の事業用資産に係る贈与税の納税猶予制度 制度の概要、猶予税額の納付、免除等について相続税の納税猶予と同様の制度となる 【贈与税の納税猶予制度の注意点】 1.認定受贈者は18歳以上である者 2.贈与者の死亡時には、特定事業用資産を贈与時の価額で取得したものとみなし、相続税を計算する 3.要件をみたせば、相続税の納税猶予制度に移行することができる | 平成31(2019)年1月1日~平成40(2028)年12月31日までの間に贈与等で取得する財産に係る贈与税又は相続税について適用 | ||||||||||||||||||||||||
小規模宅地等の課税価格の減額特例の見直し | ○特定事業用宅地等の範囲の改正 1.特定事業用宅地等の範囲から、相続開始前3年以内に事業供用された宅地等を除外 2.当該宅地等の上で事業供用されている減価償却資産の価額が宅地等の相続時価額の15%以上である場合は、相続開始前3年以内でも特定事業用宅地等に該当する | 平成31(2019)年4月1日以後の相続等により取得する財産に係る相続税より適用 | ||||||||||||||||||||||||
一括贈与非課税措置の見直し | 〇教育資金の一括贈与非課税措置の見直し 1. 2年間の延長が行われる 2.受贈者の贈与を受ける前年の合計所得金額が1,000万円を超える場合、適用を受けることができない 3.教育資金の見直しとして23歳以上の受贈者については趣味の習い事等の教育費を除外する 4.贈与者の死亡前3年以内に行われた教育資金の一括贈与非課税について、管理残額が相続税の課税対象となる ただし、死亡の日において受贈者が一定の要件に該当する場合、相続税の課税対象にならない 【相続税が非課税となる受贈者の要件(いずれかに該当)】 ①受贈者が23歳未満である場合 ②受贈者が学校等に在学している場合 ③受贈者が教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講している場合 | 平成31(2019)年4月1日以後の贈与について適用 (教育資金の見直しは平成31(2019)年7月1日以後に支払われる教育費から適用) | ||||||||||||||||||||||||
〇結婚・子育て資金の一括贈与非課税措置の見直し 1. 2年間の延長が行われる 2.受贈者の贈与を受ける前年の合計所得金額が1,000万円を超える場合、適用を受けることができない | 平成31(2019)年4月1日以後の贈与について適用 |
項目 | 内容 | 適用期日等 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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車体課税の大幅見直し | ○消費税10%への引き上げにあわせ、車体の保有課税である自動車税を恒久的に引き下げる
○恒久減税による減収分については、エコカー減税等の見直しや国税から地方税への税源移譲により、財源の確保が行われる | 平成31(2019) 年10 月1日以後に新車新規登録を受けたものから適用 |
項目 | 内容 | 適用期日等 |
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過大支払利子税制の見直し | ○課税対象額の拡大 過大支払利子税制について、対象となる支払利子等の範囲、損金算入限度額の引き下げ、適用除外要件の見直しが行われる ○損金算入限度額 調整所得金額×20%(現行:50%) | 平成32(2020)年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税から適用 |
移転価格税制の見直し | ○移転価格税制の見直し 1.移転価格税制の対象となる無形資産の明確化 2.独立企業間価格の算定方法にディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)を加える 3.評価困難な無形資産に係る取引について価格調整措置を導入 4.移転価格税制に係る更正期間等を7年(現行:6年)に延長 | |
外国子会社合算税制の見直し | 〇特定外国関係会社のペーパー・カンパニーの範囲について見直しが行われる | 平成31(2019)年4月1日以後に終了する事業年度より適用 |
項目 | 内容 | 適用期日等 | |||||||||||||
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情報照会手続きの整備 | ○税務当局の情報照会手続きの法令化 国税庁等の職員が、事業者等に対して、国税に関する調査に関して参考となるべき帳簿書類、その他の物件の閲覧又は提供その他の協力を求めることができることを法令上明確化する 〇事業者等への報告の求め 国税局長は、次の要件の全てを満たす場合に、事業者等に対して、特定取引者(事業者との取引を行う「不特定の者」をいう)の氏名又は名称、住所又は居所及び個人番号又は法人番号につき、一定の期日までに報告を求めることができる 【要件】 1.特定取引者の国税について、更正決定等をすべきこととなる相当程度の可能性がある場合 2.この報告の求めによらなければ、特定取引者を特定することが困難である場合 | 平成32(2020)年1月1日以後に行う協力又は報告の求めについて適用 | |||||||||||||
民法改正に伴う諸制度の見直し | ○成年年齢引き下げに伴う年齢要件の見直し
| 平成34(2022)年4月1日以後の相続等に係る相続税等より適用 (NISAについては、平成35(2023)年1月1日以後に開設される口座より適用) | |||||||||||||
今後の主要な検討事項 | 〇金融所得課税の更なる一体化については、多様なスキームによる意図的な租税回避行為を防止するための実効性ある方策の必要性を踏まえ、検討する ○小規模企業等に係る税制のあり方については、引き続き、給与所得控除などの「所得の種類に応じた控除」と「人的控除」のあり方を全体として見直すことを含め、所得税・法人税を通じて総合的に検討する 〇子どもの貧困に対応するため、婚姻によらないで生まれた子を持つひとり親に対する更なる税制上の対応の要否等について、平成32年度税制改正において検討し、結論を得る 〇経済の国際化・電子化への課税上の対応については、適正な課税を確保するための方策について引き続き検討を行う |
※本記事は、アクタス税理士法人より掲載許可をいただき、同ホームページにて公開されている記事を転載したものです。
https://www.actus.co.jp/library/knowledge/list.shtml
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