ごく稀に税理士・公認会計士の方からご質問をいただく内容です。
第三者M&Aはその文言通り同族関係者間でのM&Aではありません。それにもかかわらず、みなし贈与の発動可能性を気にされてらっしゃる方がおります。
この原因は平成19年8月23日東京地裁で相続税法7条は「第三者間でも問わず適用あり」と判示していることが原因かと思われます。
しかし、結論から申し上げるというまでもなく、第三間M&Aではみなし贈与は生じません。M&Aの相手側は「純然たる第三者」概念に該当するからです。
税法上の明確な定義はありませんが、「純然たる第三者間」とは、純粋に経済合理性のある、市場原理に基づいて売買価額(客観的交換価値)が決定される間柄と過去の裁判例等では読み取れます。
その取引当事者が純然たる第三者間に該当した時は、税法上の縛りは、原則としてなくなります。
この「純然たる第三者間」概念は、主に個人⇒法人間の非上場株式でよく判断材料とされます。
個人⇒法人間の非上場株式の移転については、税務上の適正評価額は下記のようになります。
・オーナー系⇒オーナー系関連会社(自社株含む)
・・・・・所得税基本通達59-6(時価純資産価額も可)
・少数株主⇒オーナー系関連会社
・・・・・配当還元方式価額
実務上、留意していただきたいのは「あくまで原則は所得税基本通達59-6を用いる」ということです。しかし、「課税上、弊害がないときに限って」配当還元方式を使用することができる、というたてつけになっています。
その「課税上、弊害がないときに限る」のメルクマールが「純然たる第三者」概念です。これに該当すれば「課税上弊害がないときに限る」に該当するのです。
では例を挙げてみましょう。売主の属性で見ていきます。
・役員
赤の他人である役員については、問題なく「純然たる第三者」です。
類書によると、役員でも番頭格で勤続年数30年~40年ぐらい、所有株式数が15%~20%程度なら所得税基本通達59-6を使うべきとの記載も見受けられます。
私見ですが、筆者はこの場合でも配当還元方式でよいかと思っております。大前提として「赤の他人」である、すなわち「純然たる第三者」だからです。
問題なく「純然たる第三者」です。
・取引先(持株会も含む)問題なく「純然たる第三者」です。
・銀行平成17年10月12日東京地裁では評価通達によらない特別の事情があるとして配当還元方式を否認したみなし贈与課税処分に対してそのような事情はないとした事例(納税者勝訴)があります。「純然たる第三者」で問題ないと思われます。
非常に見解が分かれるところです。
私見ですが、筆者は、原則である所得税基本通達59-6での買取をお勧めしています。
親族某系からの買取によって直系の議決権比率は間接的に上昇します。これは「課税上弊害がない限り」に該当しないものと考えるからです。「純然たる第三者」概念も同族関係者間では適用がないでしょう。
税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。