(1)土地に対する考え方の大前提
相続対策の例として一般的に行われているのは、所有する土地の上にアパートやマンションなどを建てることですが、こうすることで、その敷地は「貸家建付地」として80%程度に評価され、税負担が軽減されることになります。ただし、闇雲に物件を建てれば相続対策になるというわけでもありません。まずは土地を次のように四種類に「色分け」し、有効な利用法を検討することをお薦めします。
1)死守地 ・・・最後まで守りたい土地
2)有効活用地 ・・・「家」のゆとりのために有効活用したい土地
3)納税用地 ・・・納税する、または納税資金を準備するための土地
4)問題地 ・・・有効活用がままならない土地
1)死守地 死守地とは、家を守るため最後まで残さなければならない自宅の敷地や分家用地、事業を続けるための事業用地のことをいいます。これらの土地を守るためには、相続が“争族”にならないために遺言書を残すことや、農地であれば「農地の納税猶予の特例(※)」が受けられるように、普段から全体的に農地を耕作しておくことなどで対策を打つ必要があります。
((※)「農地の納税猶予の特例」とは、相続人が引き続き農業経営を継続するなどの要件を満たした場合、相続した農地に係る部分における相続税の納税が猶予される、というものです。)
2)有効活用地 有効活用地とは、その土地の上にアパート、マンション、倉庫、事務所を建築することや、その土地を駐車場などにすることで、有効に活用できる土地のことをいいます。これらの有効活用地から生じる収益を子や孫に贈与していけば、相続人は納税資金を準備することも可能となります。
3)納税用地 納税用地とは、いざ相続が発生したとき、納税するために売却などがしやすいような土地のことをいいます。このような土地は、一般的に月極駐車場などの用途で相続発生まで利用していることが多いようです。この形態であれば売却するにしても、比較的容易に契約の解除ができ、実際に相続が発生するまで有効活用地として利用することができます。
また、物納も検討できますが、近年の改正でその要件や手続きが厳しくなり、安易に物納を選択することができなくなりました。そのため、すぐにでも売却できるような状態に管理しておくことが重要であるといえるでしょう。
4)問題地 問題地とは、貸宅地(借地人が借りている土地の上に建物を所有している場合)などの処分がしにくく、収益性も低い、不良資産化している土地のことをいいます。ただし、事前対策によってはこの土地を「問題地」から「納税用地」に変えることは可能です。その対策の1つとして、「相続が発生したとき、その土地を買い取ってもらえる」といった趣旨の合意を地主と借地人の間で結んでおき、特約事項として契約書に盛り込んでおく、というものが挙げられます。生前に借地人に売却してしまうと、所得税が多額になる可能性があるため、あくまでも、相続の発生後に買い取ってもらい、「相続税の取得費加算の特例(※)」を適用するのが望ましい手法です。
((※)「相続税の取得費加算の特例」とは、相続により取得した財産を一定期間に譲渡した場合には、その相続財産に係る相続税を取得費に加算できるというものです。)
他には、借地権と底地を交換する方法も有効です。これは分割可能な一定の広さがある貸宅地について、地主が所有する底地と、借地人が所有する借地権とを交換して、双方を土地の所有者とすることです。これによって貸宅地の一部が更地で戻ってくれば、有効活用や更地物納、売却など将来の選択肢が増えます。
相続対策とひとことで言っても、土地測量など経費がかかるものもあります。まずは専門家に相談するなどして実際に相続税の試算を行い、どれくらいの税金を負担しなければならないかを把握してから、必要な対策を打っていくことが大切です。
まとめ 上記をまとめると下記のようになります。
・収益を生まない土地は、たとえ先祖代々引き継いだ土地であっても早急に売却を検討すべきである・土地の共有は円滑な遺産分割の観点からすると避けた方が良い(なぜなら、土地の共有は権利関係が複雑になることで後トラブルのもとになることが多いためです。親の世代で共有状態を解消しておくことをお勧めします。また共有状態の解消方法として、
●共有物分割・・・土地を物理的に分けてそれぞれ単独所有とする方法です。
●共有持分の譲渡・・・共有持分を有償で共有者に譲渡する方法です。
●共有物の交換・・・互いに共有している2つの持分がある場合、自ら所有する不動産の共有持分と他社が共有する不動産の共有持分を交換することにより、各々の土地を単独所有とする方法です。)
次回、続きをお話します。