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COLUMN

2018.11.08税務コンサルのポイント

みなし贈与の基本的な考え方

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相続税法7条の意義と考え方
(1)基本的な考え方
 相続税法7条は低額譲渡についての譲渡当事者「間」の規定です。
 相続税・贈与税の課税対象は、一義的には相続、遺贈又は贈与といった無償の財産移転により取得した財産です。しかし、一定の生命保険金、信託に関する権利及び債務免除益など、法形式的としては相続等によって取得した財産に該当するとはいい難いものもあります。
 これを実質主義の原則から、実質的には相続等により取得した財産と同視できるものも確かに存在します。
 そこで、こうした財産を相続等により取得した財産とみなすことによって、相続税・贈与税の課税対象に含めることとしています(相税3条~9条の6)。
 相続税法第7条は、こうした「みなし課税」の一つです。
 著しく低い価額の対価で財産の譲渡があった場合には、その対価と時価との差額について実質的に贈与等があったとみなすのです。

(2)過去の裁決・裁判例・判例にみる基本的な考え方
 相続税法7条の意義は繰り返し出てきます。例えば後述でも繰り返し出てくる有名な裁判例の1つともいえる平成19年8月23日東京地裁では、
 「贈与税は、相続税の補完税として、贈与により無償で取得した財産の価額を対象として課される税であるが、その課税原因を贈与という法律行為に限定するならば、有償で、ただし時価より著しく低い価額の対価で財産の移転を図ることによって贈与税の負担を回避することが可能となり、租税負担の公平が著しく害されることとなるし、親子間や兄弟間でこれが行われることとなれば、本来負担すべき相続税の多くの部分の負担を免れることにもなりかねない。
 相続税法7条は、このような不都合を防止することを目的として設けられた規定であり、時価より著しく低い価額の対価で財産の譲渡が行われた場合には、その対価と時価との差額に相当する金額の贈与があったものとみなすこととしたのである(遺贈の場合は相続税であるが、上に述べた贈与税と同じ議論が当てはまる。)。
 そして、同条にいう時価とは、財産の価額の評価の原則を定めた同法22条にいう時価と同じく、客観的交換価値、すなわち、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうと解すべきである。」
と、解釈しています。
 相続税法7条に規定する「著しく低い価額」の判定基準は『相続税法7条は、時価より『著しく低い価額』の対価で財産の譲渡が行われた場合に課税することとしており、その反対解釈として、時価より単に『低い価額』の対価での譲渡の場合には課税しないものである』と判示した上で、「同条が、相続税の補完税としての贈与税の課税原因を贈与という法律行為に限定することによって、本来負担すべき相続税の多くの部分の負担を免れることにもなりかねない不都合を防止することを目的として設けられた規定であることに加え、一般に財産の時価を正確に把握することは必ずしも容易ではなく、しかも、同条の適用対象になる事例の多くを占める個人間の取引においては、常に経済合理性に従った対価の取決めが行われるとは限らないことを考慮し、租税負担の公平の見地からみて見逃すことのできない程度にまで時価との乖離が著しい低額による譲渡の場合に限って課税をすることにしたものであると解される。そうすると、同条にいう『著しく低い価額』の対価とは、その対価に経済合理性のないことが明らかな場合をいうものと解され、その判定は、個々の財産の譲渡ごとに、当該財産の種類、性質、その取引価額の決まり方、その取引の実情等を勘案して、社会通念に従い、時価と当該譲渡の対価との開差が著しいか否かによって行うべきである。」と結論づけています。
 ちなみに「以上の検討によれば、相続税評価額と同水準の価額かそれ以上の価額を対価として土地の譲渡が行われた場合は、原則として『著しく低い価額』の対価による譲渡ということはできず、例外として、何らかの事情により当該土地の相続税評価額が時価の80パーセントよりも低くなっており、それが明らかであると認められる場合に限って、『著しく低い価額』の対価による譲渡になり得ると解すべきである。
 もっとも、その例外の場合でも、さらに、当該対価と時価との開差が著しいか否かを個別に検討する必要があることはいうまでもない。」と個別具体的な認定がなされることは必然であることも述べ、弾力的な解釈をしています。
 続けて7条の趣旨から「相続税法7条は、当事者に実質的に贈与の意思があったか否かを問わずに適用されるものであることは既に述べたとおりであり、実質的に贈与を受けたか否かという基準が妥当なものとは解されない」とし、「第三者との間では決して成立し得ないような対価で売買が行われたか否かという基準も趣旨が明確でない。仮に、『第三者』という表現によって、親族間やこれに準じた親しい関係にある者相互間の譲渡とそれ以外の間柄にある者相互間の譲渡とを区別し、親族間やこれに準じた親しい関係にある者相互間の譲渡においては、たとえ『著しく低い価額』の対価でなくても課税する趣旨であるとすれば、同条の文理に反するというほかない。」とも言い切っています。
 また、「相続税法7条は、当事者に租税負担回避の意図・目的があったか否かを問わずに適用されるものであること」とも判示しているので実務上留意が必要です。

※引用文中の下線は執筆者によるものです



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伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。