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COLUMN

2017.03.20税務コンサルのポイント

保険を活用した典型的な生前贈与(前半)

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①原則


 財産を生前にうまく子に移転して、なおかつ子が「放蕩息子」にならないようにする代表的な方法は生命保険の掛け金を贈与することです。契約者が子、被保険者が親、保険金受取人が子にする契約が最も良い形といえます。
 生前贈与を受けても、その現金を子が使いにくいように預金口座から保険料を自動引落の形式にしておきます。さらに移転した現金分について申告をしておきます。いずれ親が死んだときに保険金をもらうという方式であれば、むやみに現金贈与をして子供が道を踏み外すということも防止できます。また、この場合の生命保険金は子の一時所得として取扱います。一時所得により相対的に少ない税負担で多額の現金を与えることができるのです。子は受領した保険金を、相続税の納税資金にあてたり、代償分割の原資にしたりと様々な活用方法が考えられます。

②被相続人の事情別 ~保険契約の類型~


 相続人に心配をかけない方法として保険を活用した典型的な対策もあります。生命保険の最大の効果は「時間を購入する」という考え方です。少額の保険料を継続的に支払っていれば、いつ発生するかわからない相続の時に多額の保険金を受け取ることができるということです。実際の生命保険の活用に関しては税務と法務にかかわる高度な知識が本当は必要になります。ここでは典型的基本的な活用方法について述べていきます。

(イ)まずは相続税の支払い原資を作る「納税プラン」
 生命保険を使って相続税の納税資金を確保します。相続財産に占める不動産の割合が高く、キャッシュがあまり手元にない場合に活用したいプランです。
 保険金を受け取った時に相続税が課税されるものです。生命保険金の非課税枠を活かして加入します。活用する保険の種類は、保障が一生涯続く「終身保険」又は「変額終身保険」がよいでしょう。ここで養老型の保険とは、「死亡した時に受け取る保険金」と「契約期間が満了したときに受け取る保険金が」の金額が同じになる保険をいいます。加入時にまとめて保険料を支払う、一時払いタイプと月払いタイプがあります。一般的に月払いタイプは、払込保険料の総額よりも満期保険金のほうが低くなるケースもあります。加入形態は契約者=被相続人、被保険者=被相続人、受取人=相続人です。保険に関する利害関係者として、生命保険などの保険料を支払う者を「契約者」、死亡や高度保障リスクの想定対象者を「被保険者」、被保険者が亡くなった場合などに支払われる保険金を受け取る権利有する者を「保険金受取人」といいます。つまり被相続人が生命保険の契約をして相続人が保険金を受け取る形式となります。この加入形態で契約すると保険金は「みなし相続財産」となりますから、相続税の課税対象となります。一方で生命保険の非課税枠も使えます。法定相続人1人当たり500万円までです。この非課税枠部分が納税資金にそのまま充当できるわけです。
 受け取る保険金が多いほど相続財産は増加しますが、相続財産に占めるキャッシュの割合は増加します。つまり納税資金対策としては十分な効果があるということです。また不動産の評価対策と併用すれば、さらに大きな納税資金原資となります。
 つまり流動性の低い収益用不動産を所有することになっても、収益性が高い事業計画であれば、余剰のキャッシュフローを利用して生命保険に加入すればよいわけです。一方で所得税方式もあります。保険の種類は「終身保険」で、加入形態は契約者=相続人、被保険者=被相続人、受取人=相続人となります。保険金を受け取るのが相続人自身となりますので受け取った時には一時所得が総合課税されます。
 この一時所得ですが計算式は、(受け取った保険金-支払済保険料-50万円)÷2となります。これについては契約者=受取人の場合、まず税金がかかることはありません。実際の所得税の計算上は、これとその他の所得を合算して総合課税されるわけです。ちなみに年金で受け取る場合には、公的年金等以外の雑所得の扱いになります。課税方法も変わることに留意してください。なお、契約者は相続人ですが、この相続人が支払う保険料は親から贈与されたもので構いません。ですから、保険料相当額を親から相続人へ生前贈与して相続財産を減少させながら、相続税の支払い原資の確保ができることになります。節税対策と納税対策が同時に実行できるということになります。

 次回、続きからお話します。


伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。