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COLUMN

2018.09.20税務コンサルのポイント

エンプティ・ボーティングに係る議決権について租税法上の評価② ~アレンジメントの各種手法(1)~

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2.アレンジメントの各種手法
2.1.株主間契約
 議決権拘束契約は株主間契約の典型例で、取締役選任等に対して当事者間の合意に従い議決権を行使する旨定める契約です(注6)。会社支配を単なる資本多数決で決定することを回避するために締結され(注7)、主に株式会社の株主が株主総会における議決権の行使の方法について合意しておくことは、ある目的に沿った株主総会決議の成立を指向することになります(注8)。議決権拘束の有効性については一般に認められていることでありますが(注9)、議決権拘束契約自体について違反の問題は生じます。有力説では、契約当事者間の債権契約としては有効ですが、契約に違反して議決権行権が行使されたとしても、その株主意思による行使である以上、その効力には影響はなく、契約違反者に損害賠償義務が発生するのみです(注10)。契約した株主を行使することは無論可能ですが、当該契約は会社に対して効力は生じません。つまり議決権行使の結果である総会決議等を否定することができない以上、会社の行為を縛ることは不可能なのです。一方、株主全員が当事者の契約である場合には、対会社関係では効力を主張できないという理屈を形式的に当てはめることは妥当ではなく、契約違反の議決権行使により成立した決議は定款違反として取消の対象となる、とする見解もあります(注11)。議決権拘束では、株主議決権と経済的持分を分離することは確かに可能であるものの、その実効性について契約違反の際の救済方法等、不明確性は多々残ります(注12)。


2.2.種類株式
 実務上活用はそれほどなされていませんが、代替案として種類株式があります。当該理由として、種類株式の発行手続きの煩雑さ等が列挙されています(注13)。また、租税法上の問題でも後述しますが、種類株式の最大の問題はその評価にあります。現行実務においてその評価方法が明らかになっているのは一部であり、他は個別に検討すべきである、というのが当局の建前となっています。信託受益権の評価でも同様の問題が生じるため、これについてはまとめて述べます。なお、最判平成28年7月1日では、株式の「取得の価格」/公開買付け後に株式を全部取得条項付種類株式にする取引について下記のような判示をしています。

1 本件は、抗告人による全部取得条項付種類株式の取得に反対した抗告人の株主である相手方らが、会社法172条1項に基づき、全部取得条項付種類株式の取得の価格の決定の申立てをした事案である。

2 多数株主が株式会社の株式等の公開買付けを行い、その後に当該株式会社の株式を全部取得条項付種類株式とし、当該株式会社が同株式の全部を取得する取引において、独立した第三者委員会や専門家の意見を聴くなど多数株主等と少数株主との間の利益相反関係の存在により意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ、公開買付けに応募しなかった株主の保有する上記株式も公開買付けに係る買付け等の価格と同額で取得する旨が明示されているなど一般に公正と認められる手続により公開買付けが行われ、その後に当該株式会社が買付け等の価格と同額で全部取得条項付種類株式を取得した場合には、上記取引の基礎となった事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情がない限り、裁判所は、上記株式の取得価格を公開買付けにおける買付け等の価格と同額とするのが相当である。




 ・・・次回、「2.3. 民事信託」からお話します。


(注釈)
注6*江頭憲治郎「株式会社法(第6版)」 62頁
注7*江頭 前掲注※ 336頁
注8*森田果「議決権拘束・議決権信託の効力」浜田道代=岩原紳作編「会社法の争点(ジュリスト増刊)(有斐閣 2009年)102頁
注9*議決権拘束契約は、株主総会ごとに議決権代理行使の代理授与を要求している会社法310条2項に違反しているか問題となるが、同条の趣旨は、経営陣が会社支配のために議決権代理行使の濫用を防止することにあり、そうでない議決権拘束契約に同条を形式的に当てはめることは妥当ではない。これにつき江頭前掲注※338頁注(3)及び森田前掲注※103頁参照
注10*江頭 前掲注※ 336頁
注11*江頭 前掲注※ 336頁~337頁注(2)、森田前掲注※103頁
注12*具体的には①議決権拘束合意の有効性②有効であるとした場合の合意に違反する株主総会決議の効力③合意に違反した行為の差し止め請求権の可否④合意違反により賠償されるべき損害の捉え方という4種の論点が登場する。これらについて明確になっていないという指摘について行方國雄「閉鎖会社における種類株式及び属人的な定めの利用」(ジュリスト増刊会社法施行5年―理論と実務の現状と課題)(2011年)73頁
注13*信託を活用した中小企業の事業承継円滑化に関する研究会「中間整理~信託を中心とした中小企業の事業承継の円滑化に向けて~」(2008年9月)6頁


伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。