平成30年度税制改正により、小規模宅地等の特例のうちのいわゆる「家なき子特例」の適用要件が見直され、その適用要件が厳格化されました。
今回の改正により、今後の節税対策の方向性が大きく変わる可能性があるので注意が必要です。
1 制度の概要と趣旨の確認
(1) 小規模宅地の特例
通常の小規模宅地の特例とは、被相続人が自宅として使用していた土地に対して多額の相続税が課されてしまうことにより、その被相続人と同居していた相続人がその自宅に継続的に居住できなくなってしまうことを避けるために、その土地の評価額を80%減することを認める特例です。
(2) 家なき子特例
そして、例えば一時的な転勤等により親と別居している間に相続が発生した場合等、同居の要件を満たせなかった場合を救済するために制定された「特例の特例」が「家なき子特例」です。
2 平成30年度税制改正による見直しの内容
このような趣旨により制定された制度であるため、家なき子特例の根底には「本来は親である被相続人と同居したかったが、やむを得ない事情により同居することができなかった場合の救済」という考え方があり、その適用要件にはこの考え方が強く反映されています。
(1) 改正前の適用要件
改正前の家なき子特例の適用要件は下記のとおりです。
①被相続人に配偶者および同居相続人がいないこと
⇒ 通常の小規模宅地の特例の適用対象者がいないこと②相続開始前3年以内に日本国内にあるその者又はその者の配偶者の所有する家屋に居住したことがない者が取得すること
⇒ 持ち家のない相続人が土地を相続すること③相続した当該土地を申告期限まで保有していること
⇒ 相続した自宅に居住する可能性があること①子世代に持ち家があるため、遺言書を使用して持ち家のない孫に自宅を相続させて孫を家なき子特例の適用者とする手法
②親が自宅以外に不動産を購入してそこに子を住まわせることによって、親が住む自宅の土地を家なき子特例の対象にする手法
③持ち家を有する子が、その持ち家を孫に贈与したり、親や特殊関係法人に譲渡したりすることによって、贈与者・譲渡者である子を家なき子特例の適用者とする手法
①相続開始前3年以内に、その者の3親等内の親族又はその者と特別な関係のある法人が有する国内にある家屋に居住したことがある者
⇒ 上記(2)①と②の節税手法を制限②相続開始時において居住の用に供していた家屋を、過去に所有していたことがある者
⇒ 上記(2)③の節税手法を制限ひのき共同税務会計事務所/芝オフィス代表 税理士平成13年早稲田大学社会科学部卒。デロイトトーマツ税理士法人、太陽グラントソントン税理士法人を経て現職。国内上場企業及び外資系企業に対する税務申告業務から、連結納税コンサルティング業務、事業再編・M&Aに係る税務精査業務、ストラクチャー検討業務、オーナー企業に対する事業承継支援業務などに従事。著書に「中小・オーナー企業の国際税務」(中央経済社)、「第6版 詳解 連結納税Q&A」(共著・清文社)がある。