平成29年度税制改正大綱
昨年公表された「平成29年度税制改正大綱」。中小企業経営者としては最も気になる改正の1つとして「取引相場のない株式の評価の見直し」(いわゆる自社株評価の見直し)ではないでしょうか。
ご存知のように自社株評価の大きな問題点として、上場企業と違い基本的に市場流通性がないにも関わらず、実力以上に想定外に株価が高く評価されることが多々あり、事業承継を円滑に進めることが困難になるということがあります。
税理士に勧められて自社株評価をしたところ、その評価額のあまりの高さに驚き、戸惑い、その扱いに困っている経営者はよくあることです。
自社株の評価は、ザックリ言うと【配当】【利益】【簿価純資産】の3つの要素について、それぞれ【1:3:1】の比重によって算定する方法に拠られています。つまり【利益】の比重が3で最も高く、「儲かっている会社ほど評価が高くなりやすい」構造にあるわけです。
税制改正大綱では、この3つの要素の比重を【1:1:1】へと見直すとされています。これにより、誰もがまず真っ先に思うことは【利益】の比重が3から1へ下がることによって、「儲かっている会社の評価額が今までよりも下がりやすくなる」ということになります。
もちろん「儲かっている会社の評価額が今までよりも下がりやすくなる」ことは事実です。
実はこの改正の計算式によると、自社株の評価額が今までよりも高くなる(下がりづらい)、ケースがあることに気が付きます。
では、どのようなケースで自社株の評価額が今までよりも高くなる(下がりづらい)恐れがあるのでしょうか。
○内部留保が大きい会社 利益の比重が下がるということは、これに伴って全体では【簿価純資産】の比重が上がることを意味します。つまり簿価純資産が大きい会社は株価が上昇する可能性があります。
例えば、株や土地を多く保有する会社において、株や土地の価額が上昇すれば簿価純資産が、より大きくなり、比例して株価評価も上昇する可能性が高まります。
言い方は適切でないかもしれませんが、何もしないで資産価値が上がったような会社については株価評価が高くなるようにしたい意図が見えます。内部留保の高い会社では株価対策は一般的には対策しにくくなったといえるでしょう。
○利益の圧縮により株価対策をしようとする会社 今までの評価方法では利益の比重が高かったため、評価を下げるには【利益】を痛めつける、つまり利益を圧縮したり損失を出すことが有効でした。退職金の計上や特別償却等によって株価評価を下げ、そのタイミングで株を移動することを税理士から提案されたことのある方は多いはずです。
しかし、改正によって利益の比重が下がることで、損失が計上されたとしても株価評価への影響が小さくなることになります。利益が出ている会社の株価評価を下がりやすくする一方で意図的に損益にインパクトを与えることでの株価評価対策を封じたい意図が見えます。
財務省の真の意図として、財務省が肝入りで始めた事業承継税制をもっと活用してほしいとの思惑があります。というのは、事業承継税制は使い勝手が悪く、通常の事業承継スキームにおいては従来型の持株会社スキーム等で対応していることが今現在もそうだからです。例えば、利益の比準要素に占める割合は3でしたのでこれを痛めつけて持株会社スキームに移行するというのは常套手段です。痛めつけてから持株会社に現オーナーが売却するのです。持株会社は相続税評価額と買取金額(所得税法基本通達59-6)の差額から株価はつきません。これを用いた方法がまさに従来型の方法で王道でした。これによりわざわざ使い勝手の悪い事業承継税制を使わなくても中小企業の事業承継対策はうまくいっていました。これを事業承継税制を作った張本人である財務省が傍観しているわけではありません。改正にはこういった思惑が見え隠れしています。