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COLUMN

2018.07.19税務コンサルのポイント

相続法改正と遺留分減殺請求について

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 相続法改正は下記の改正案からなっています。

【参考】民法(相続関係)等の改正に関する要綱案の概要

第1 配偶者の居住権を保護するための方策
1 短期居住権の新設
 配偶者が相続開始の時に遺産に属する建物に居住していた場合には、遺産分割が終了するまでの間、無償でその居住建物を使用できるようにする。
2 長期居住権の新設
 配偶者の居住建物を対象として、終身又は一定期間、配偶者にその使用を認める法定の権利を創設し、遺産分割等における選択肢の1つとして、配偶者に長期居住権を取得させることができるようにする。

第2 遺産分割等に関する見直し
1 配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示推定規定)
 婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産の遺贈又は贈与がされたときは、持戻しの免除の意思表示があったものと推定し、被相続人の意思を尊重した遺産分割ができるようにする。
2 仮払い制度等の創設・要件明確化
 相続された預貯金債権について、生活費や葬儀費用の支払、相続債務の弁済などの資金需要に対応できるよう、遺産分割前にも払戻しが受けられる制度を創設する。
3 相続開始後の共同相続人による財産処分
 相続開始後に共同相続人の1人が遺産に属する財産を処分した場合に、計算上生ずる不公平を是正する方策を設ける。

第3 遺言制度に関する見直し
1 自筆証書遺言の方式緩和
 自筆でない財産目録を添付して自筆証書遺言を作成できるようにする。
2 公的機関(法務局)における自筆証書遺言の保管制度の創設
3 遺言執行者の権限の明確化

第4 遺留分制度に関する見直し
 遺留分減殺請求の行使によって当然に物権的効果が生ずるとされている現行の規律を見直し、遺留分権の行使によって遺留分侵害額に相当する金銭債権が生ずるものとしつつ、受遺者等において、金銭の支払に代えて、受遺者等が指定する遺贈等の目的財産を給付することができるようにする。

第5 相続の効力等に関する見直し
 相続させる旨の遺言等により承継された財産については、登記なくして第三者に対抗することができるとされていた現行法の規律を見直し、法定相続分を超える権利の承継については、対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないようにする。

第6 相続人以外の親族の貢献を考慮するための方策
 相続人以外の親族が、被相続人の療養看護等を行った場合には、一定の要件のもとで、相続人に対して金銭請求をすることができるようにする。


 
 このうち、遺留分減殺請求に関する留意事項を列挙します。
 現行では、遺留分権利者が贈与等を受けた者に対して遺留分を求める請求(遺留分減殺請求)をすると、遺留分を侵害している贈与などはその侵害額の限度で効力を失い、原則として減殺された財産はその限度で遺留分権利者のものとなります。
 つまり、贈与された財産そのものを返還する(現物返還)のが原則で、金銭の支払い(価額弁償)は例外という位置づけになっています。
 要綱案では、この取扱いを抜本的に見直し、「遺留分侵害額請求」によって金銭債権が発生することとされました。つまり、遺留分権利者は、贈与等を受けた者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭を請求できることとなります。検討段階では現物給付も選択できることが議論されましたが、最終的に金銭のみとする案に落ち着いたもようです。
 贈与等を受けた者(遺留分侵害額請求を受けた者)は裁判所の許可を得て、支払いを猶予してもらうことができます。
 現行では、遺留分の計算上算入される(減殺の対象になる)贈与(生前贈与)の範囲について、相続人に対するものか否かで異なる取扱いがされています。すなわち、相続人以外に対する贈与は、原則として相続開始前の1年間にされた贈与に限られますが、相続人に対する贈与のうち特別受益にあたるものは、特段の事情がない限り、全ての期間の贈与が算入されます。
 要綱案では、この相続人に対する贈与(特別受益にあたるもの)について、相続開始前 10 年間にされたものに限って算入するとし、現行の取扱いよりその範囲を限定することが提案されています。

伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。